【青羽 悠さんインタビュー】社会人になる直前だからこそ、書くことができた青春小説です
【Culture Navi】カルチャーナビ / 今月の人・今月の情報:社会人になる直前だからこそ、書くことができた青春小説です──青羽 悠さん
この取材の翌日に入社式を控え、「春からは作家業と会社員、二足のわらじ生活が始まるんです」という小説家の青羽悠さん。撮影の合間にも「いろんなことが許されていた学生時代が、あと数時間で本当に終わっちゃうんだなあ」と、しみじみ。最新小説『22歳の扉』は、青羽さんが京都で過ごした大学時代の思いが、色濃く反映されている青春の物語。 主人公の朔(さく)は、一人の先輩との出会いがきっかけで、学生だけで運営している学内のバーのマスターを務めることに。朔の学生生活、そしてバーに集まってくる仲間たちとの4年間が瑞々(みずみず)しく描かれています。 「16歳で作家デビューして以来、小説は、今の気持ちを書きとめる備忘録みたいな存在です。僕にとって大学は、異なるバックボーンを持った人が一堂に会する、特別な場所でした。入学した頃から、“いるだけで物語が始まる空間だな”と感じていましたね。朔は、僕の理想の学生像なんですよ。物事を自分で考える力があり、次第に周りの仲間に影響を与える存在となっていきます。彼を含めた登場人物たちを生み出せたのは、学部から大学院と、6年間を京都で暮らすことができたから。物語を完成させるまでに少し時間はかかりましたが、京都の移り変わる季節や、町が持つのんびりとした空気感の描写は、僕が日々の中で感じたことなんです」 京都は、LEE読者にも人気の観光地。その魅力的な風景が小説の中にちりばめられているのも、読み手の心を刺激してくれます。 「朔が『これから自分はどうしたいのか?』と、物思いにふけっていた京都市京セラ美術館。この施設がある岡崎エリアは、大好きな場所のひとつです。皆さんにも足を運んでいただきたいですね。僕も朔と同じように何をするわけでもなく、ぼーっと絵を眺めて過ごしていました」 「小説家として、“場”を書くことに興味がある」という青羽さん。就職をきっかけに東京に住まいを移した今は、「とても広いこの土地で、気になることがたくさんある」そう。 「麻布台ヒルズのようなイメージ通りの都会的な風景もあれば、下町情緒あふれる場所もありそうですし。街の振れ幅がすごいですよね。学生時代とは別の世界を見ようと東京へ来たけれど、あまりに巨大で、まだとらえきれません。まずは職場の環境になじむことからなのかな、と思ったり。この土地で、人生初の会社勤めをし、働きながら生活をする――。僕の中でどんな変化が起こるのだろうと楽しみにしています」 作家業と会社員との両立については、こんなふうに思っているとか。 「デビューから8年がたちますが、学生という“何も定まっていない者”の一員として作品を書く……というのが、僕の立ち位置だったと思います。そこから、24歳の社会人が、仕事しながら執筆をするという新たな段階に入った気がしますね。今の僕に言えるのは、小説と仕事、どちらもやりたいと決めたのだから、今、できることをやっていこうと。とはいえ、そんな自分に対して『いつの間に大人になったんだ?』と、心が揺れている部分もあるんです。このインタビューが終わって、引っ越ししたての自分の部屋に戻ったら、会社員になるまでの残り時間を数えつつ『まだ子どもでいたいよ~』と、密かに泣くかもしれません(笑)」