離ればなれで育ったふたごの物語 劇団四季『ふたりのロッテ』約10年ぶりに上演中
劇団四季のファミリーミュージカル『ふたりのロッテ』が、8月25日(日)まで、東京・浜松町の自由劇場で上演中だ。 【全ての写真】劇団四季ファミリーミュージカル『ふたりのロッテ』より ドイツの作家エーリッヒ・ケストナーが、第二次世界大戦後まもなく発表した同名児童文学が原作のこのミュージカルは、1971年にニッセイ名作劇場“こどものためのミュージカル・プレイ”として初演されて以来、全国公演を中心に各地で上演を重ねてきた。この間、演出、振付、舞台美術なども何度かブラッシュアップされ、前回公演から約10年ぶりの上演となる今回も、一部演出に手が加えられている。 四季のファミリーミュージカルは3歳未満の子どもでも入場可能なこともあり、夏休みに入って親子や家族連れの観客が目立つ客席には、シートクッションを借りて席に座る小さな子の姿も見られた。どの子の顔も楽しそうで、これから何が始まるのかというワクワク感がこちらにも伝わってくる。 物語は、オーストリアとの国境近くにあるドイツのケーニッヒ湖のほとりから始まる。この地の「子供の家」で夏休みを過ごすために、オーストリアとドイツの子どもたちが集まってくるが、ウィーンから来た少しおてんばで元気いっぱいのルイーゼ(田原沙綾/東沙綾のWキャスト)と、ミュンヘンから来たおとなしいロッテ(田原真綾/大河原萌乃佳)は瓜二つ。びっくりしながらもやがて意気投合したふたりは、生年月日も生まれた場所もまったく同じであることを知り、自分たちが父親と母親に別々に引き取られた双子の姉妹だと気づく。家族4人で暮らしたいと願うふたりは、密かに入れ替わってそれぞれの家に帰り、9月14日の誕生日には一緒にお祝いをしようと誓い合った。「子供の家」のムテジウス校長(佐和由梨/遠藤珠生/大野華子)は、ふたりの計画を知って、「くじけてはダメ」と励ます。 しかし、ミュンヘン駅に迎えに来た母親のケルナー夫人(森川温子/小川晃世)に会った、ロッテのふりをしているルイーゼは、雑誌社で記者として働く忙しい母に次々と用事を頼まれ、初めての街でパニックに。一方ウィーンでは、家政婦のレージ(小林英恵/安宅小百合)が、ルイーゼになりすましたロッテを駅まで迎えにくる。父親のパルフィー氏(鈴木涼太/岸佳宏)は作曲家でオーケストラの指揮者を務めていて、やはり多忙で家には帰ってこない。どうやらイレーネ(松本恵美/嶋本優美子)という女性との再婚話も持ち上がっているらしいと聞き、大きなショックを受けるロッテ。 双子を演じるふたりの俳優(観劇した日は田原沙綾と大河原萌乃佳)は、相当稽古を積んだのだろう。外見をよく似せているのはもちろん、声を合わせて言う台詞もぴったりとそろっていて、本当の双子のようだった。さらに、ふたりを取り巻くミュンヘンとウィーンの少女たちも、とても難度が高くテンポの速いダンスを生き生きとこなし、美しいコーラスを聴かせる。ファミリーミュージカルとはいえ、大人だけで観劇しても観応えは十分だ。 小さな子どもは、面白くなければ正直に反応するため、もっとも厳しい観客と言われるが、パルフィー氏と、彼の手紙を口述筆記するレージとのコミカルなやり取りや、ルイーゼが慣れない料理に挑戦して大失敗する様子など、笑い声が上がる場面も多く、誕生日のシーンでは、舞台と客席がひとつになって手拍子がわき起こった。また、物語の中でパルフィー氏が、自分が指揮する『ヘンゼルとグレーテル』の曲を口ずさむシーンがあるが、実際にエンゲルベルト・フンパーディンク作曲の同名のオペラの曲が使われ、唯一の敵役とも言えるイレーネは、やはり同オペラの中の、お菓子の家から魔女が現れるシーンのフレーズを歌いながら登場するのも、わかりやすく工夫が凝らされていて面白い。 自由劇場での公演の後、9月21日(土)からは、神奈川県相模原市の相模女子大学グリーンホールを皮切りに、新潟県や広島県、群馬県、鹿児島県などの14都市を巡る全国公演が始まる予定だ。 取材・文:原田順子 <公演情報> 劇団四季ファミリーミュージカル『ふたりのロッテ』 原作:エーリッヒ・ケストナー 初演版構成:宮島春彦 台本:矢代静一 作詞:山川啓介 作曲:いずみたく 潤色:梶賀千鶴子 1995年版オリジナル構成・演出:浅利慶太 2024年7月21日(土)~8月25日(日) 会場:東京・自由劇場 ※2024年9月21日(土)より全国公演あり