大谷「ホームラン」を支えたロバーツ監督の危機対応能力
(1)(2)の欠如が分かりやすいでしょう。 食中毒、顧客情報の漏洩といったトラブルが発生した際、企業が取るべき対応策はある程度限られています。大企業ならば、対応マニュアルも存在しています。 ところが、記者会見でトップが不用意な一言を言ってしまって、事態の収束が遅れてしまうなどというケースは珍しくありません。この場合、そのトップには(1)(2)が欠けているわけです。つまり「なぜ消費者が怒っているか」「どう伝えれば怒りを鎮めてもらえるか」といったことへの理解力が無い。職業差別発言で辞任することになった静岡県の川勝知事は直近の代表でしょう。 大谷翔平選手について言えば、あくまでも外野から見た立場で申せば、若くしてこれら八つをきちんと備え、発揮している方だという印象でした。 抜群の成績だけではなく、これらの能力がきちんと機能していることも、彼をスーパースターにした要因だったと考えます。 しかし、水原氏の違法賭博問題以降、どこか歯車が狂っているように見える場面があるのも事実です。
大きな環境の変化
違法賭博問題以外にも、ここ最近の大谷選手には環境に大きく変化をもたらすことが続きました。右ひじの手術、チーム移籍、結婚です。 こうしたことによって、(2)通意力と(5)発動力を発揮しづらくなっていたのではないでしょうか。 水原氏が突然解雇されたことにより、どこかベンチ内でのコミュニケーションが以前ほど円滑に進んでいないように見える場面がありました。ポツンと一人でいる場面が放送されたこともあります。 渡米後の通意力のかなりを担っていたのが水原氏だったので、これは当然でしょう。 また、現状、水原氏の穴を埋めるための行動がスムーズに進んでいるかという点にも疑問が残ります。つまり発動力が発揮できていない。 強調しておきますが、これらは彼の落ち度でも何でもありません。 個人的にはドジャースが“チーム大谷”を最初からもっと精緻な形で編成しておく必要があったし、違法賭博問題発覚以降はより戦略的な“チーム戦”を意識するべきだったと考えます。金銭の管理や法務関係のサポート、データ野球の補佐役やメディア対応などを担うチームの発足が不可欠なのです。 見過ごされがちですが、水原氏をあまりにもスピーディーに解雇してしまったこと自体が、大谷選手のためになっているのかという視点も持っておくべきでしょう。もちろん、「疑わしきは罰せず」を貫いて、大谷選手の傍に置いておけ、などと言いたいのではありません。 しかし、一般論でいえば、不祥事を起こしたからといって、いきなり「外部の人間」として放り出すのはデメリットがある点は組織人であれば知っておいたほうがいいことです。企業では、処分が決定されるまでは雇用を続けるケースも珍しくありません。その間に事情聴取や実態調査を行うからです。 解雇により、水原氏はフリーになってしまったので、自由に発言し、動き回れることになりました。当局の捜査に協力せよといった命令を球団側が下すことはできません。 さすがに彼が保身のために、大谷選手を陥れるような言動を取るとは考えたくないのですが、危機管理上はそうしたリスクも想定する必要があります。