Z会に早稲アカ、enaも参入、中学受験の難関対策特化型「少数精鋭エリート塾」が次々登場 一方で“通塾拒否”に至った生徒も
塾の日に駄菓子を抱えて友達の家へ
A子さんの息子はハードルが高いといわれる入塾テストも1回でクリアした。同じ小学校のほかの子は不合格だったとも聞く。2クラス編成の上のクラスに入れた時は、さらに気分は高揚した。 「合格実績を見ると、上のクラスにいたら、御三家か駒東、海城のどこかには入れるはずなんですよ」 息子の通塾は順調なスタートを切ったが、一方で、A子さんは仕事で苦戦を強いられていた。 「退職者が出て、仕事を引き継いだんですが、その前任者が色々と手を抜いていたんですよ。だから、通常の2倍ぐらいの業務量になってしまって。辞めるって決めていたから雑にやったんだと思いました」 出張が増えて、家事がなかなかできなくなると、中学生の娘はお弁当を自分で作り出した。息子のケアどころではなくなる。 幸い、息子は電車に乗って塾に行くことにすぐ慣れた。交通系ICカードのPASMOには十分に入金していたので、ファミチキを買って食べることもできて楽しそうだった。 そんなある日、塾の日なのに、いつまで経っても「到着した」という通知がこなかった。この塾は校舎に入る際にカードをタッチすると親に「着きました」という通知がくる仕組みだ。 塾に電話をすると来ていないという。キッズスマートフォンに電話をするが電源が落ちている。GPSも機能しない。 慌ててふためくと、同じ小学校の友だちのママからメッセージがきて、息子が駄菓子を抱えて遊びに来ているという。塾がある日のはずなのになぜと思って連絡をくれたのだ。仕事を切り上げて、迎えに行こうと思ったが、考え直す。 「塾をサボって友だちの家に行くようなタイプではないんですよ。真面目な子なので塾に行かないのには理由があるはず」 そこで友だちの家に迎えには行かず、帰宅して待って事情を聞いた。小学4年の息子は自分の悩みをうまく言葉にできないのか、母親に話す気になれないのか、話し合いはうまくいかなかった。ただ、授業が難しすぎるという理由ではない、ということは分かった。勉強自体は楽しいようで、学力的にも問題ないのだ。 テストの成績もいい。宿題もちゃんとやっているし、勉強が嫌という様子はない。A子さんは手を頬に当てて、こう話す。 「その塾の授業は双方向で、生徒が手を挙げて発言をすることが多い授業なんです。息子も小学校の授業では積極的に発言をしたがるので、そういう塾は楽しいんじゃないかって思って入れたんです」 しかし、その授業が塾に行かなくなった原因になってしまったのだという。 今回は、難関の入塾テストをクリアして、少数精鋭のエリート塾に息子を入れたA子さんが頭を抱える事態になったことを紹介した。とても手厚く面倒を見てくれる塾で満足していたが、息子が塾に行くのを嫌がるようになってしまった。その理由を次回、詳しく紹介していこう。 (第3回につづく) 【プロフィール】 杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『中学受験ナビ』(マイナビ)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)で連載をし、『週刊東洋経済』『週刊ダイヤモンド』で記事を書いている。受験の「本当のこと」を伝えるべくnote(https://note.com/sugiula/)のエントリーも更新中。