是枝裕和がトルコ映画「二つの季節しかない村」を「この上なく面白い」と絶賛
「雪の轍」で知られるトルコの映画監督ヌリ・ビルゲ・ジェイランが手がけた映画「二つの季節しかない村」を鑑賞した映画監督の是枝裕和と加藤拓也、俳優の筒井真理子、藤原季節らからコメントが到着。また本編映像がYouTubeで公開された。 【動画】映画「二つの季節しかない村」本編映像(他14件) トルコ・アナトリア東部の村を舞台にした本作では、主人公の美術教師サメットが、女生徒セヴィムらから虚偽の“不適切な接触”を告発されたことから物語が展開していく。「シレンズ・コール」のデニズ・ジェリオウルがサメットに扮し、メルヴェ・ディズダル、ムサブ・エキチ、エジェ・バージも出演した。 是枝は「この上なく面白い映画」と評したうえで「素晴らしい台詞。素晴らしい演出」と本作を絶賛。なお彼は「二つの季節しかない村」と同タイミングでカンヌ国際映画祭に監督作「怪物」が出品され、「二つの季節しかない村」の脚本も担っているヌリ・ビルゲ・ジェイランの妻エブル・ジェイランとともに本年のカンヌ国際映画祭の審査員を務めた。加藤は本作について「理想的な映画」、筒井は「始末におえない人間の『ざま』を拡大してみせる」と評する。藤原は「これほどリスクを背負った真実の対話を誰かとしたことがあっただろうか」とコメントした。そのほか小島秀夫、高橋由佳利、長倉洋海、浅野和之、小野正嗣、澁澤幸子、沼野充義、宮下遼、サラーム海上、武田砂鉄、辛酸なめ子、松崎健夫のコメントも記事末に掲載。また、キネマ旬報を中心に活躍する宮崎祐治、書籍装画などを手がける中辻作太朗によるイラストも到着した。 本編映像は物語の終盤、主人公サメットと英語教師のヌライが議論を戦わせるシーン。4年にわたる赴任を終え「俺は義務を果たした、この土地から出ていく」と主張するサメットに対して、「あなたは何もかもこの土地のせいにする」と真正面からぶつけるヌライの激論は、本編では12分を超える。 さらに公開に東京・ヒューマントラストシネマ有楽町と新宿武蔵野館では、来場者プレゼントとして本作の海外版ビジュアル3種を使用したポストカードを配布することが決定した。 「二つの季節しかない村」は、10月11日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国で順次ロードショー。 ■ 是枝裕和(映画監督)コメント 観る前に予想していた「重厚な」物語とは違う、この上なく「面白い」映画だった。 2、3人の人物が、外を雪に覆われた室内で、延々と話すシーンが繰り返されるにもかかわらず、 ラストシーンまで一瞬も飽きることが無い。 素晴らしい台詞。素晴らしい演出。 ■ 筒井真理子(俳優)コメント 繰り返される二つの季節。圧倒的な自然の中に蠢く滑稽なまでの人間の卑小さ。 意地の悪い虫眼鏡で覗いたかのように、始末におえない人間の「ざま」を拡大してみせる。 悪意と嘲りと痛みと諦念にまみれ、それでも尚いじましくも逞しく人生は続く。 ■ 藤原季節(俳優)コメント ヌライの言葉を聞きながら、 自分はこれほどリスクを背負った真実の対話を誰かとしたことがあっただろうかと考えた。 人に期待をしすぎると必ず裏切られるし、傷ついて、もう何もしたくないと諦めそうになる。 しばらくはこの映画のチラシを部屋に飾ろうと思う。 この少女の目から見た自分を幻視し、その孤独を確かめながら生きてみるつもりだ。 ■ 小島秀夫(ゲームクリエイター)コメント 二つの季節しかないトルコ東部。 雪に閉ざされた村。雪に閉ざされた学校。雪に閉ざされた教師。 閉ざされた諍いで、凍てついた鬱積、怒り、焦燥、絶望、後悔が何処までも降り積もる。 果たして、頑固に凍結した教師に“雪解け”は訪れるのか? そこは、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督。 いつもの様に3時間を越える尺で、壮大な自然と人間、雪と枯れ草のコントラストを恣意的に見せる。 豊かな四季の元に暮らしている我々は、冬か夏かのデジタルな“人間模様”に衝撃を受けるはずだ。 ■ 高橋由佳利(漫画家)コメント 男って愚かだな~女って怖いな~と思いながら、どの登場人物も他人事ではなく愛おしくて ぐいぐい惹き込まれてしまった。 熱いチャイと白チーズのボレクが食欲をそそる罪作りな映画である。 ■ 加藤拓也(脚本家 / 演出家 / 監督)コメント 真っ白な雪景色と解像度の高い人間達の意地悪さに惹かれた3時間でした。 一人の美術教師の体験が物語になる理想的な映画です。 ■ 長倉洋海(写真家)コメント 冬のどんよりとした光が人の心の奥を照らす。 雪景色のように淡く消え去っていく出会い。 いくつもの季節を通り過ぎて、人間は初めて「人」になっていく。 枯葉がみずみずしい緑の葉に生え変わるように。 監督は、地に生えた人たちの姿を写真で捉え映画に挟み込んでいる。 それもこの映画の魅力だ。 ■ 小野正嗣(作家)コメント どこまでも続く雪景色の底には、春を待つ草花のように、 よりよき社会や人生を待ち望む希望が閉じ込められている。 だが、いつまで待てばよいのか? 息をのむほど美しい映像が、抑えつけられた者たちの怒り、焦燥、諦めで震えながら、 私たちの胸を締めつける。 ■ 浅野和之(俳優)コメント この作品を観て、登場人物達の自然な演技に圧倒されました! しかしその映像のリアルな中に突然入るシュールなカットが面白かった。 ■ 辛酸なめ子 (漫画家 / コラムニスト)コメント 抑圧された環境で言いたいことが言えないと、人は目で会話できるようになるのかもしれません。 射るような目、懇願する目、死んだ魚のような目、達観した目...... 登場人物たちの目の表現力に圧倒されました。 ■ 澁澤幸子(作家)コメント 大海原の如き銀世界。 サメットの4年間は雪の中で見た一場の夢か。 しかし、雪の村で触れ合った人々との想い出は、壮麗な風景とともに生涯彼の心を去ることはないだろう。 迫力ある会話に圧倒された198分だった。 ■ 沼野充義(ロシア文学者)コメント 雪に閉ざされたトルコの辺境を舞台に繰り広げられる驚くべき魂のドラマ。 抑えられた情念がぶつかりあって、火花を散らす。 チェーホフやナボコフなどのロシア文学の名作にも通じる濃密な思索と官能の世界が現出する。 ■ 宮下遼(トルコ文学者) 世界はまるで擦り切れた希望だ―― そう嘯く教師サメットは、瑞々しい少女の中に自らの託つ内なる砂漠の本性を追い求める。 言葉にできてしまうものとできないもの、そしておそらくそうすべきでないものが世界には同居する。 そんな当たり前のことを思い出させてくれる極上の対話劇だ。 ■ 武田砂鉄(ライター)コメント どんな人間も利己的なのか。 誰かのためを思う、そんな自分のことを思っているだけなのか。 人間の生臭さを知った。そして、問われた。 ■ サラーム海上(音楽評論家 / 中東料理研究家)コメント 「雪の轍」に続き、またしても冬、冬、冬、凛烈な冬。 霊峰アララト山を遠く臨むアナトリア東部の最果ての村で、 ジェイラン監督がメタ手法まで交えて炙り出すのは、平凡な主人公たちの中年の危機、いや、実存的危機! ■ 松崎健夫(映画評論家)コメント <二つ>というモチーフが物事の二面性を示唆。 騒動に対して“不適切”と過剰に反応する人々の姿は、 偏見と憎悪にたぶらかされてゆくような社会構造の脆さを戒める。 羨望と嫉妬は表裏一体なのだ。 (c)2023 NBC FILM/ MEMENTO PRODUCTION/ KOMPLIZEN FILM/ SECOND LAND / FILM I VÄST / ARTE FRANCE CINÉMA/ BAYERISCHER RUNDFUNK / TRT SİNEMA / PLAYTIME