荒木飛羽主演ドラマ「スメルズ ライク グリーン スピリット」原作が描いた“青春とアイデンティティー”の美しく、苦い葛藤
2011年から2012年まで「コミックBe」(ふゅーじょんぷろだくと)で連載された永井三郎原作の人気漫画「スメルズ ライク グリーン スピリット」が、荒木飛羽主演で実写ドラマ化。2024年9月19日よりMBSドラマフィル枠(MBS:毎週⽊曜深夜1:29~、tvk:毎週木曜深夜1:00~ほか ※FODにて独占見放題配信)で放送が始まった。 【動画】荒木飛羽主演のドラマ「スメルズ ライク グリーン スピリット」、予告動画でも伝わる“普通じゃない”息苦しさ ■平成の閉鎖的なド田舎を舞台にした、少年たちの成長とひと夏の青春物語 本作は田舎特有の閉鎖的な社会のなかで、“自分に正直に生きられる世界”を探す少年たちの姿を描く。舞台は閉鎖的な平成のド田舎。女装癖があって、かわいいものが好きで、同性が好き…“人とはどこか違う”という思いを抱いた少年・三島フトシ(荒木)は、同級生からその趣向を理由にいじめられていた。 実際に男性が好きな三島は抵抗もせず、人知れず口紅を塗ることが心のよりどころに。そんなある日、三島は学校の屋上で以前なくした口紅をいじめグループのリーダー・桐野が持っているのを目撃。しかも彼は、三島の使った口紅を自らの唇に塗ろうとしていて…。自分のアイデンティティーに目覚めた三島と、彼を取り巻く少年たちが織り成す、ひと夏の淡い青春ストーリーとなっている。 同作の懐かしくも切ないノスタルジックな世界観を創り出しているのは、数多くの映画やドラマに引っ張りだこの若手俳優たちだ。主人公の三島役は、まだ18歳ながら俳優歴10年の荒木。スカウトをきっかけに8歳で俳優デビューを果たし、窪田正孝や山崎賢人、新田真剣佑など人気俳優の幼少期・少年期を好演し注目を集めてきた。いま最も勢いのある俳優の一人だ。 荒木の出演作は多数あるがなかでも好評を博したのは、狂気的な少年・榎本総一役で話題となったドラマ「あなたの番です」や、野口也英(満島ひかり)の長男・綴役を演じたNetflixオリジナルドラマ「First Love 初恋」など。特に“透明”な雰囲気の印象が強く、無垢な子どもにも、生まれながらの異常者にも豹変する演技力を持ち味としている。 三島という極めて繊細なテーマを持つキャラクターを演じるにあたって、荒木はまさにハマり役だ。自分と世間が持つ感覚のズレに戸惑いながら、表面上は諦念とともに受け入れ、心の奥底ではまだ許しを探している…難解な表現を求められる三島は、一筋縄ではいかないキャラクターなのだ。 そんな三島をいじめているグループのリーダーであり、もう1人のキーキャラクターである桐野マコト役を演じるのは曽野舜太。5人組ボーカルダンスユニット・M!LKとして活動するかたわら、「佐原先生と土岐くん」(2023~2024年、MBSほか)の利瀬竜尚役、「コスメティック・プレイラバー」(2024年、フジテレビ)の南条敦役など、マルチな場面で活躍を果たしている。 桐野はイジメを働くグループのリーダーだが、実は“本当の自分”を押し殺して日々を送っているというこれもまた難しい役柄だ。三島に決定的なシーンを見られてしまうことから大きな変化を遂げるのだが、これまで見せてきた「対外的な自分」と「本当の自分」をめぐる桐野の葛藤は物語の大きなポイントになるだろう。 さらに「恋わずらいのエリー」「磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~」の藤本洸大、6人組ボーイズグループ・7ORDERのボーカルで「空飛ぶタイヤ」舞台「桃源暗鬼」などに出演する阿部顕嵐らが脇を固める同作。気合いの入った布陣だけに、いやでも期待が高まるというものだ。 ■原作ファン期待の映像化「それぞれの想いや決意に涙が止まらない」 原作「スメルズ ライク グリーン スピリット」の作者・永井三郎は、幅広い作風ながらテーマの深掘り力で高い評価を得ている作家。代表作には、いじめやマウンティングといった現代社会の問題を描いた「センコウガール」、貧乏神・疫病神・便所神・死神といった残念な神様たちが繰り広げるカオスな笑いを繰り広げるギャグ漫画「珍神」といったタイトルがある。 「スメルズ ライク グリーン スピリット」は永井の人間観察力、深掘り力と繊細な描写という魅力がそろった傑作。映像化にあたっては、作品ファンからも「え!?ドラマ化するの?ずっと読んでる名作だから、嬉しい…!」「重めのストーリーなんだけど、すごくリアルな描写なんだよね。性に悩み苦しむ子どもの親にも読んでほしい」「物語が特に最高なので、リアルでいそうな人達で自然にやって欲しい。三島はキレイめであって欲しいけど」といったコメントが多数寄せられた。 なお作品でも象徴的なシーンである三島と桐野の屋上の一幕は、ドラマでも見どころとなっている。先日おこなわれた制作発表会見で、荒木は「原作を読んでいても、三島がすごく幸せそうだったりとか、悩みだったりとか、いろいろな感情が出てくるのがすてきだなと思っていて。演じたときも、三島と桐野の屋上のシーンが一番自分的にも楽しくて、三島的にもいろいろな感情があったので、そこがすごく見どころなんじゃないかなと思います」とアピール。 一方、曽野は「エネルギッシュな青年たちが、自分と大切な人を天秤にかけながら、狭いコミュニティーの田舎で必死に一生懸命もがいて生きていくようす。その強さだったり美しさというのが見どころなのかなと思います」と語っている。 現在社会において、ジェンダー問わず、自分のあり方に悩む人は多いだろう。また、思春期ならではの敏感さや悩みに共感する人も多いはず。自分らしく生きることの難しさを伝える本作は、悩みながらも現在を必死に生きる多くの人々に届いてほしい作品だ。 ◆文=吉田真琴