残酷KOショーとなったメイウェザー対天心は無謀なマッチメイクだったのか?
格闘イベント「RIZIN.14」でボクシングの元5階級王者、フロイド・メイウェザー・ジュニア(41、アメリカ)と、天才キックボクサー、那須川天心( 20、TARGET/Cygames)の3分3ラウンドのボクシングルールによるエキシビションマッチが行われ、3度のダウンを奪ったメイウェザーが1回2分19秒にTKO勝利した。5キロ以上の体重差。天心が8オンス、メイウェザーが10オンスのグローブハンディはついたが、元5階級王者が本気で倒しにきたら、こうなるのも避けられなかった残酷なKOショー。陣営がタオル投入したことで最悪の事故にはつながらなかったが、主催者側の試合管理や、そもそもの無謀なマッチメイクに疑問の残る試合となった。“見世物”としては面白かったのだが……後味の悪さもあった。
天心の左ストレートがメイウェザーを本気にさせた!
両選手の入場は午後11時を過ぎていた。まず天心が矢沢永吉の「止まらないHa~Ha」でテンション最高潮に何やら吠えながら入場。続いてメイウェザーは、ラスベガスの世界戦同様、自前のラッパーがマイクを持って歌いながら共に入場、2万9105人で膨れ上がった大晦日の格闘の聖地のボルテージはマックスになった。国歌斉唱などの試合前行事の間もメイウェザーは、終始笑顔で、せわしなく動き、ロープの感触を確かめ得意のダッキングで上体を揺らしていた。最初はガードを固め、パンチを見切ったらL字ガードでディフェンスの技術を駆使しながら彼が言い続けていた「9分間のエンターテインメント」を披露する予行演習にも思えた。だが、メイウェザーが見せたのは本気のKOショーだった。 “マネー”はリングの中央で笑いながら遊ぶように左ジャブを出した。 「なめていた。笑っていた」と、天心の回想。 だが、メイウェザーの右ストレートの打ち終わりに合わせて放った天心の左ストレートが、その顔面をかすると元5階級王者の態度が一変した。 「渾身のパンチだった。一発入ってそこから顔色が変わった。凄いプレッシャーをかけてきた。圧力が倍以上に感じた。怖さが増した」 元WBA世界スーパーフライ級王者の飯田覚士氏も、この一発が火をつけたと見る。 「最初は一発も触れさせず遊ぶつもりだったんでしょうね。でも、まさかの一発をもらった。火がついたんでしょう。スパーリングならば冷静だったかもしれませんが、体重差があると言えど8オンスのグローブのパンチですからね」 メイウェザーはガードをしっかりと固めて前進。スイング系の右ボディを打ってきた。天心はブロックで止めたが「そこに気をとられた」ところへ左フックの一撃。テンプルの奥、側頭部あたりを打たれた、天心が体を反転してダウンするほどの威力だった。 「立とうとしたが、なかなか立てない。ふわふわしていた」 セコンドを務める父も「目が飛んでいたのがわかった」という。 立ち上がった天心は、ボディからコンビネーションブローで反撃するが、ブロックで防がれびくともしない。さらにプレスをかけるメイウェザーは、右のボディから右フックと上下に打ち分けた。その右をもろに顔面に食らった天心は天を仰ぐようにして2度目のダウン。ロープに手をかけて立ち上がったが、もう足にきていた。 メイウェザーは容赦なかった。再び左フック。ガードをしていたが、またテンプルよりやや後ろにオープン気味のパンチがヒットすると、のたうち回るかのようにして3度目のダウン。レフェリーがカウントを始めると同時にコーナーから赤いタオルが投げ込まれた。 超満員の会場は呆然。ざわざわと異様な雰囲気に包まれた。 「パンチが効くって怖い。セコンドを見たが、傾いて見えた。気持ちでは立とうとしていたが体が動かなかった。(これまでのパンチと比べて)全然、違う。これ以上、強いパンチはない。もう(これを知った以上)怖いものがないと思う」 リング上で天心は号泣した。 「悔しかった。本気でいけると思っていたんで。これ以上悔しいことはない」 メイウェザーはダンスをしていた。 インスタに「9分のスパーリングで900万ドル(約9億9000万円)」とファイトマネーをほのめかしたが、9分どころか、わずか139秒で約10億である。踊りたくなるのも当然か。それでも天心の近くに寄って「天心! 素晴らしい格闘家であることを誇りにもって頭を高く持って今後を生きなさい」と激励の言葉を送り、リング上でマイクを向けられると、悪童ぶりは封印、日本のファンや天心へ感謝の意を表した。 「エンターテインメント性を楽しんでもらえる試合を意識したが、それを実現できて嬉しい」