〈漫画誌動向〉押見修造・奥浩哉、豪華新連載が続く「スペリオール」評論家が読み解く魅力とは
11月8日発売の「ビッグコミックスペリオール」23号にて、新連載が告知された。押見修造を筆頭に中村汚濁、乃木坂太郎、津村マミ、奥浩哉と期待のニューカマーからヒット作家まで豪華な面々で、コアな漫画ファンに刺さるラインナップ。実写ドラマにアニメとメディアミックスで大ヒットしている『トリリオンゲーム』、漫画愛好家から高く評価される『住みにごり』や『らーめん再遊記』、また創刊時から同誌を支えてきた人気シリーズの最新作『味いちもんめ -継ぎ味-』など、すでに幅広い連載作品に、さらに厚みが出そうだ。 「第11回 ヤングスペリオール新人賞」で努力賞を獲得した『LOCKER』(ヒトミスナガ) ジャンルや読者層に縛られない「スペリオール」の魅力は、いったいどう培われてきたのか。漫画編集者・評論家の島田一志はこう分析する。 「『ビッグコミックスペリオール』は1987年に『ビッグコミックスピリッツ』と『ビッグコミックオリジナル』の中間の年齢層、20~30代の半ばのサラリーマンをターゲットとして創刊された漫画雑誌です。元々は『あずみ』や『味いちもんめ』など、メジャーでテレビドラマになるような作品が多かったところが、2010年代の初頭くらいからコアな漫画読みに向けたアンダーグラウンドでマニア路線の作品が増え始めてきたことに、漫画ファンの方ならば気づいていたのではないでしょうか。 それまでは若いサラリーマンは通勤時に電車で漫画雑誌を読んでいました。そういった読書スタイルに合わせ、誌面にはテレビドラマ的で、幅広い読者が毎週の楽しみにできるような作品が多かった。他誌だと『ビジネスジャンプ』などが近い傾向にあったように思います。しかし、スマートフォンの普及もあり、人々の読書スタイルが変化していくなかで、通勤時の購読にフォーカスせず、時間と場所を選ばない、コアな漫画読みに向けた作品を増やす方向にシフトしていったのではないかと」(島田氏) そんななかで、マニア路線に完全に舵を切ることなく「メジャー路線と両立させている」ことが、「スペリオール」の誌面の豊かさ、賑やかさにつながっていると島田氏は言う。 「近年で言うと『トリリオンゲーム』など、メジャー路線の作品も健在です。メジャー路線とマニア路線の両立という流れは、もともと『スピリッツ』にありました。『スピリッツ』の読者がやがて『スペリオール』を読む年齢になる。そのなかで、松本大洋氏や浅野いにお氏の連載といった『スピリッツ』をずっと読んできた読者にも対応できる誌面づくりが意識されてきたのではないでしょうか」 メジャー路線とマニア路線。一見、対立する二つのベクトルに左右されない読者が増えたのも、『スペリオール』が破綻せずに両路線を両立させている要因になっているかもしれない。 「90年代にサブカル文化やオタク文化が勃興した結果、それらを浴びるように普通に受け取ってきた世代が、『スペリオール』のターゲット読者層になってきました。例えるならば、ディズニー映画もタランティーノ映画も等しく楽しめる感覚を持った世代。いまの30~40代の人たちは、メジャーだマイナーだと意識せず、マニアックなもの、アングラなものも分け隔てなく楽しむ素養がある人が多いと思います。 『スペリオール』で『機動戦士ガンダム サンダーボルト』が連載を開始した2012年当時には、ガンダムが誌面に載っていることに違和感がありましたが、いまはない。雑誌とは変わっていくものだとあらためて感じますし、そのなかで『スペリオール』はチャレンジを続けて、同誌ならではという枠組みのイメージを作っていっていると思います」(島田氏) 『血の轍』の押見修造、『GIGANT』の奥浩哉など期待が高まる新連載陣 今回発表された新連載の中で、島田氏はどの作家に注目しているのか。 「押見修造氏や奥浩哉氏の新連載が始まるなか、あえてというわけではないのですが、個人的には乃木坂太郎氏の新連載に注目したいです。世間的に乃木坂氏は『医龍』のイメージが強いはず。しかし、『幽麗塔』『夏目アラタの結婚』など、他の作品を見ていくと、本質は結構アンダーグラウンドな作家のように思います。しかもそれをヒットさせる力がある。先ほどの話で言うと、メジャー/アンダーグラウンドのどちらにでも振れる才能を持っているのではないでしょうか。作品はまだ構想中とのことですが、『スペリオール』という雑誌に合った感性を持つ漫画家だと思います。もちろんすでに看板作家の一人ではありますが、今後ますますの活躍に期待したいですね」 強力な新連載を迎え、2025年の『ビッグコミックスペリオール』はさらに飛躍を見せるのか。雑誌というパッケージでなく、漫画を作品単体で楽しむ傾向もある昨今だが、時には雑誌を読み、各誌のカラーを感じてみるのも楽しそうだ。
リアルサウンドブック編集部