岩田康誠の〝代役〟横山典が導いた大健闘! 当日の鞍上交代劇もダイシンラーに見えた〝希望の光〟
「典さんに、お願いしよう」
そんな背景があった中で知らされた、岩田康誠騎手が乗れないという事実。代わりに乗ることができるジョッキーの名前のリストから、梅田調教師は、「典さんに、お願いしよう」と決断されました。 使ってきていたこともあり、装鞍所からいつもに比べても相当、うるさいしぐさを見せていたというダイシンラー。「かなりギリギリの精神状態だな」と思い、梅田調教師は横山騎手に、「典さん、すみません。この馬、ちょっとかかりますし、口向きが難しいです。あと、精神状態もかなりギリギリかも」と伝えたそう。すると横山騎手は、「大丈夫。今までのレース、全部見て確認したから」と、キッパリおっしゃってくださったそう。 「この通りダイシンラーは難しいし、GⅠでも12番人気だったし、典さんほどの人に頼むのは申し訳ないなとも思った。でも、その日の7Rで典さんが乗っていた馬(ルクスマーベリック)の(松永)幹夫さんが、〝典、代打だけど、いい馬の依頼が来たよって言ってたよ〟って声をかけてくれたんや。レース映像を全部見て、ラーのことをいい馬って言ってくれてるんだとうれしかった」 梅田調教師は、レース前にかわした松永幹夫調教師とのやり取りも振り返ります。 返し馬では予想通り、かなり行きたがっている様子だったというダイシンラー。それも確かめてか、横山騎手は、ダイシンラーにとって初めての〝逃げ〟の手を選択します。スローに落とし込み、粘りに粘っての4着。戦前の陣営の不安を吹き飛ばす大健闘でした。 「最高の競馬だった。典さんに頼んでよかった、オーナーも大喜びや」とは梅田調教師。レース後、リプレイ映像を見ながら、梅田調教師は横山騎手に「この馬、どうやって調教したら、より良くなると思いますか。レースに行ってテンションが上がると、調教でやらないことをやってしまって…」と相談したそうです。すると横山騎手は、「多分この馬は、併せ馬とかをするより、単走で調教した方がいいよ。のびのび走らせてやった方が良くなると思う」と言ってくださったそう。 「そういうアドバイスまで聞けるから、やっぱり典さんに頼んでよかった。あんなふうに、競馬前からドンと構えてくれるひとなんで、そうそういないんや」(梅田調教師)。 ダイシンラーは、この後、一旦放牧に出ます。来年、重賞路線を目指すとすれば、その前に賞金を加算しておかなくてはなりません。ですが、これまで暗中模索だったラーの育て方に、一筋の光が見えました。不運を幸運に変えた、横山典弘騎手との1600メートルを、陣営はきっと無駄にはしません。
赤城 真理子