指導者の資質欠いたハリス氏 三権分立が空洞化するトランプ2.0 中岡望
さらに決定的な事実は、一般有権者による投票(ポピュラーボート)の獲得数である。民主党は過去、大統領選で敗北しても、一般票獲得で共和党を上回ってきた。だが今回、ハリス氏が獲得した一般票はトランプ氏の獲得数を下回っている。アメリカ社会の保守化は着実に進んでおり、今回の大統領選もそうした流れの中にあった。 ◇権威主義的な政権に さらに今回の選挙の特徴は、共和党は大統領だけでなく、上院の過半数を獲得し、下院でも過半数を獲得する見通しである。その結果、トランプ氏は行政府と立法府、司法の三権を掌握することになる。最高裁の9人の判事のうち共和党系は6人で、そのうちの3人はトランプ氏が前大統領時代に指名した人物である。三権が相互チェックをするという民主主義の原則である「三権分立」が空洞化する可能性がある。 最高裁は多くのトランプ寄りの判決を出している。特に今年7月、トランプ氏が前回20年大統領選の敗北を覆そうとした罪で起訴されている裁判を巡り、「大統領の免責特権」を認めた判決は、今後のトランプ政権の動きを理解する上で重要である。大統領は在職中の公的な行為については何をしても罪に問われないのである。バイデン大統領が「トランプ氏は民主主義の脅威」であると訴えていたが、それが現実のものになる可能性が強い。 トランプ氏は大統領就任直後に自らが関与する訴訟に関して免責を主張し、裁判を中止させるだろう。21年1月に議会に乱入して有罪判決を受けた人物や訴訟中の容疑者に恩赦を与えるのは確実とみられる。司法省を使って政敵を粛清し、軍を使って「内なる敵」を排除すると公然と語っている。5000人の官僚をトランプ支持者と交代させるとも主張している。政府を完全に作り変えようとしている。 トランプ氏は、司法に対する影響力の強化も図るだろう。連邦判事にトランプ派の人物を指名し、共和党が過半数を占める上院で承認させる。民主党は抵抗する余地はない。トランプ氏は三権を支配し、強大な大統領が誕生する。第2期トランプ政権は極めて権威主義的な政権になるのは間違いない。
トランプ氏は集団防衛や同盟関係に対しても懐疑的で、米国が過剰な負担を強いられていると考えている。北大西洋条約機構(NATO)や日本、韓国などの同盟国に対して軍事費の増額を求めてくる構えである。トランプ外交がどのようなものになるかは、政権発足後に、どんなウクライナ政策とイスラエル政策を打ち出すかで、その姿が見えてくるだろう。 (中岡望・ジャーナリスト)