56年ぶり復活の日本ヘビー級王者の前途
前途多難な日本のヘビー級ボクシング
「何が当たったんですか? 当たるならフック系でなくストレート系のパンチだと考えていたんです。でも、10ラウンド、ポイントアウトするつもりでした。足を使い、速いジャブを突き合うというヘビー級戦があってもいいじゃないですか。倒しに行くのは防衛戦でいい。今日は、とにかく勝つという結果にこだわろうと考えていたんです。絶対に取らなければならないベルトでした。日本のベルトも取れないのに世界なんて語れないでしょう。これでK―1と、ボクシングと両方のベルトを取りました、そんな人間僕だけでしょう?」 控え室で京太郎のワンマンショー続いた。 一度は、WBCのヘビー級ランキングの15位に入ったが、昨年の大晦日に、東洋王座に挑戦し無残なKO負けを喫した。元来打たれ弱くハートも強い方ではない。 「あの負けでヘビー級に対する恐怖心が染み付きました。でもメンタルトレーナーの方の力を借りたメンタルトレーニングや、周囲の人の存在が僕に勇気を与えてくれたんです。250人もの人が応援に来てくれました。残念な顔って見せられませんよ。絶対に負けるわけにはいかない試合でした。プレッシャーも一番きつかったです」 5月には本場ラスベガスに遠征した。メンタルトレーニングでは、勝利してリング上で右手を上げてもらう場面をイメージして恐怖心を払拭したという。京太郎の劇的KO劇の裏にあった葛藤である。 「K-1では武蔵、レバンナ、ピーター・アーツというレジェントを倒してきたんです。こんなところで負けれませんよ」 京太郎節は、全開である。 「次は、ピーターと同じジムの竹原でしょう? 王者のボクシングをします。絶対に負けない。その次は東洋。東洋を取るまでは辞められませんよ」 京太郎の初防衛戦の相手は、この日の挑戦者決定戦で橘高リオを判定で破った竹原虎辰である。まだ世界は語れないが、京太郎のモチベーションは高い。 夢のある日本ヘビー級王座を数年かけて復活までこぎつけた関係者の方々には敬意を表したい。現在、日本ランキングは、この日の2試合に登場した4人である。ただ日本タイトル戦は、劇的なKO決着となったが、その前座カードだった橘高―竹原の挑戦者決定戦も含め、そのレベルは決して褒められたものではなかった。竹原は海外で世界ランカーとの対戦経験のある選手ではあるが、パンチの質やディフェンス技術は高くない。橘高もその体重を生かしたパンチ技術が、まだ未熟。京太郎のステップワークや、スウェー、ダッキングなどのディフェンス技術の水準は、確かに高いが“退屈な5ラウンド”の間、目の肥えた後楽園のファンからは、「あれじゃあマスボクシングだろ?」「日本ランキングに入れる基準はなんなんだ?」という声が聞かれた。プロとしてヘビーの醍醐味を魅せる!という観点からすれば、ずいぶんと物足りない。 京太郎に続き、K-1の重量級の日本人選手のボクシング転向が増えてくれば、選手層の底上げとレベルアップにつながるのではないかと思っていたが、立ち技系格闘技の日本人重量級は、すっかりと衰退してしまい、転向組は期待できなくなった。日本人の平均的な体格の数値は年々上がってはいるが、欧米のように100キロを超えるアスリートは、そう多くはない。その中でも、たまたま体格に恵まれたアスリートたちは、相撲、柔道、レスリング、ラグビー、アメフト、バレー、バスケットなどに流れ、ボクシングを選択することは稀だ。今後は、中高校生の段階から協会を上げて本格的なヘビー級の特別育成プロジェクトでも組まない限り、日本のヘビー級戦線の未来は明るくないだろう。京太郎頼りでは、前途多難である。 (文責・本郷陽一/論スポ/写真・山口裕朗)