『M-1グランプリ2024』は最高傑作。ヒールになれなかった令和ロマンが「証明したもの」とは?
“ホンモノのヒーロー”であることを証明した令和ロマン
『M-1グランプリ2024』の決勝戦は、大会としてだけでなくテレビ番組としても完璧だった。 「漫才日本一を決める大会」という前提ではあるが、『M-1』の大きな魅力のひとつは「誰でもひと晩で爆発できる可能性」があることだと思っている。 2015年、トップバッターで無名のメイプル超合金が出てきたとき。2019年、ラストイヤーのかまいたちや、決勝常連の和牛や、注目の見取り図といった面々のあとに、ミルクボーイが歴代最高得点を出したとき。2022年、ダイヤモンド・ヨネダ2000・キュウと個性的なネタが続いた先の10組目で、ウエストランドがストレートパンチを繰り出したとき。 確かな実力に加え、さまざまな要素が複雑に絡んだ先に、いわゆる「爆発」というものが生まれるのだろう。 昨年大会では「爆笑が、爆発する。」というフレーズが使われていたものの、結果的にはひと組目の令和ロマンの盛り上がりが大きく、点数がとびきり跳ね上がることのない展開だった。その可能性もあるのが笑神籤であり『M-1』だと、2023年の大会で感じた。 ところが。昨年分の神様のしわ寄せ(?)が今年にやってきた。前王者の令和ロマンが2年連続の1番手という前代未聞の事態。会場も、ファイナリストも、視聴者も、全員がざわめくその逆境を、“Champion”はあっという間に乗り越えてみせた。 1本目に披露した「名字」のネタは、自身のネットラジオ番組『令和ロマンのご様子』のメールから生まれたものであり、仕上げたのも11月ごろだそう。 2カ月足らずで、『M-1』決勝戦で通用する、というか優勝するネタを仕上げてしまう化け物度合い。見事だとか、非凡だとか、自分が拾い集めたような言葉では称えることのできない力だ。恐怖。戦慄。 のちにくるまさんも語っていたが、このネタはしゃべくり漫才かつ全世代が共感できる題材。なんばグランド花月や祇園花月などの幅広い年齢が観客にいる寄席でも盛り上がるネタだそうだ。 これまで『M-1』用の漫才は、しばしば「競技漫才」と呼ばれていたが、寄席で通用し、なおかつ『M-1』決勝の舞台でも高得点がつけられる漫才がとうとう生まれた。悪魔的だ。悪魔漫才。 今年7月の『ABCお笑いグランプリ』では『M-1』チャンピオンにもかかわらず出場し、自らを「害悪」と言いつつ優勝。令和ロマン、とくにくるまさんのヒールキャラは、この夏ごろからスタートしていた。 それなのに。本当にみんなから嫌われていることはなく、『M-1』でまたもやトップバッターを当ててしまう悪意のない愛嬌。どこまでいってもヒールになれないふたりは、ホンモノのヒーローであることを2024年で完全に証明してしまった。