アマゾンとグーグルの意外な共通点、現場の心に火をつける本物の経営理念の力とは
■ ペイジ氏の「ある一言」がきっかけでGoogle広告が生まれた ──目先の数字だけ見ていては、中国撤退という結論は導き出せなかったかもしれませんね。 伊丹 そうですね。実は、グーグルの収入の大部分を占めている「Googleアドワーズ(現Google広告)」という広告エンジンの基本型が誕生したのも、経営哲学・経営理念のたまものです。 グーグルの創業から4年が経過した2002年のある金曜日の午後、ペイジ氏は本社のカフェテリアの掲示板にウェブページを印刷した紙を貼り出しました。そこに写っていたのは、グーグルの検索結果ページに、広告エンジンが配信したいくつかの広告が表示された画面でした。表示されていたのは、ユーザーが検索した語句とほとんど関連のない広告ばかりで、ユーザーにとっての価値がないと憤ったペイジ氏は「この広告表示はムカつく」と殴り書きをして貼り出していたのです。 それを見かけた1人のITエンジニアは「ペイジ氏の不満はもっともだ」と感じ、社内の4人のエンジニアに声を掛けて、週末に新しい広告配信プログラムを自主的に作り始めます。そして、ここで作られた広告配信プログラムがGoogleアドワーズの原型となりました。 経営理念の存在は、現場の人間に「そこまでやるか」という衝撃的な行動を取らせることがあります。このグーグル社員のエピソードも、グーグルのミッションである「世界の情報を瞬時に誰にでも届ける」を信じて、現場レベルで判断して行動した好例といえるでしょう。
■ 「強烈なできごとの積み重なり」が理念を育む ──経営理念というと創業期に作られるイメージがあります。事業の成長に寄与する経営理念を作るために「最適なタイミング」はあるのでしょうか。 伊丹 企業の置かれた状況によって変わりますが、狙うべきは「短期間にいろいろなことが起こった後」だと思います。事業の成功を味わったり、失敗の苦渋をなめたりした後で、「最終的には良い状況に向かっていったタイミング」が理想的です。 経営理念を作る上で重要な経験を、本書では「強烈なできごとの積み重なり」と表現しました。そうした出来事を経営陣と組織のメンバーが「共通体験」として共有できれば、その共通体験を抽象化することで「成功の論理を言語化したい」「自分たちの財産にしたい」と経営者が考えるようになります。これが、経営理念が育まれるときの代表的なプロセスです。 それゆえに、共通体験を持たない状態で経営理念の言語化を試みると、どうしても言葉遊びになりがちです。共通体験を抱いていなければ、従業員が「この経営理念で表現しようとしていることが、何を指すのか」が分からないからです。つまり、共通体験の有無こそが、経営理念が言葉遊びに終わるか、あるいは腹落ちする理念にまで昇華するか分かれ目になります。その意味では、これから成長期を迎える企業については「共通体験の創出」を狙い、事業展開を加速させることも必要かもしれません。
三上 佳大