良い香りを放つ「教養のある遊女」が手招きし…「娼婦の街」と誤解されがちな遊廓が実は「日本文化の華開いた場所」だったという「意外な真実」
2025年大河ドラマ『べらぼう』の主人公・蔦屋重三郎は、遊廓で栄えた街として有名な吉原で生まれました。吉原遊廓では、華やかな遊女たちが手招き、夜も眠らない「不夜城」と呼ばれていました。 【写真】良い香りを放つ「教養のある遊女」…「娼婦の街」と誤解されがちな遊郭の真実 はたして、日本人にとって「遊廓」とは何だったのでしょうか。『遊廓と日本人』の著者・田中優子さんが、「あってはならない悪所」遊廓の世界をわかりやすく解説します。
いま「遊廓の歴史」を考えるということ
本書を刊行する理由は、そのような現代の問題を考えて欲しいからでもありますが、それだけではなく、2つの面で、遊廓に対して持ってしまいがちな誤解を解くためでもあります。 ひとつは、大正・昭和の吉原のイメージから、単なる娼婦の集まる場所と考える誤解です。この後、具体的に書いていきますが、遊廓は日本文化の集積地でした。 書、和歌、俳諧、三味線、唄、踊り、琴、茶の湯、生け花、漢詩、着物、日本髪、櫛かんざし、香、草履や駒下駄、年中行事の実施、日本料理、日本酒、日本語の文章による巻紙の手紙の文化、そして遊廓言葉の創出など、平安時代以来続いてきた日本文化を新たに、いくぶんか極端に様式化した空間だ、と言えるでしょう。 しかしもう一方の面から言えば、華やかな面だけでなく、前借金をはじめ、お金にからむさまざまな問題や、遊廓内の格差つまり高位の花魁から場末の遊女まで、暮らしの様子は決して同じではなかったという面、性病対策が必要な空間だったという面、客たちが贅沢な飲食をしている一方、遊女たちは酒はともかく、健康に必要な食生活を得られなかったという面などは、見逃してはならないでしょう。
遊女たちの「教養」
漏れ聞くところによると、2021年末に放送が始まる人気アニメ『鬼滅の刃』第2期では遊廓が舞台になり、親御さんたちは子供にどう説明すれば良いかわからないそうです。ぜひ本書をお読みになることで、2つの側面を説明してあげてください。 ひとつは遊女が、江戸時代当時の一般の人々でもなかなか身につけられなかった伽羅という輸入香木を、着物と髪に焚きしめ、とても良い香りを放っていたこと。和歌を勉強し、自分で作ることができたこと。漢詩を勉強する遊女もいたこと。書を習い、墨で巻紙に手紙を書いていたこと。三味線を弾き、唄い、琴を弾く遊女もいたこと。生け花や抹茶の作法を知っていたこと。 遊廓では一般社会よりはるかに、年中行事をしっかりおこない、皆で楽しんでいたこと。それによって日本文化が守られ継承されたという側面は、ぜひ伝えてください。 そしてもうひとつは、遊女は、家族が借金をしてそれを返すために遊廓でおつとめをしていて、地位の高い男性のお客様をもてなすために高い教養を持っていたけれど、同時に、借金を返すために男女関係を避けることができなかったことです。 それを目的に来る客たちもいたことを伝えて欲しいと思います。女性が全人格的にではなく、性行為の対象としてのみ見られることは、今日では許されないことも、ぜひ伝えて欲しいと思います。 さらにこちらの記事<「高額の借金返済」に「梅毒のリスク」…遊廓が「二度と出現してはいけない悪所」だと言える「ヤバすぎる真実」>では、「あってはならない悪所」遊廓の魅力と「知られざる真実」をわかりやすく解説します。ぜひお読みください。
田中 優子