開戦からまもなく3年…戦略的見地では「ロシアの大敗北」と言える理由 兵士の練度は低く、戦車は“敵に背を向けて遁走”の目を覆う実態
映画会社が戦車を提供
実は3668両でも控え目な数字と言ってよく、ウクライナ国防省は昨年10月の時点で9004両の戦車を破壊したと発表していた。 イギリスのシンクタンクである国際戦略研究所によると、ロシア軍は旧式の戦車を含めると約1万両の戦車を所有していたという。オリックスの推計が正しければ、3分の1の戦車をロシアは失った計算になる。 産経新聞(電子版)は昨年11月14日に配信した「映画撮影用の戦車を軍に提供 ロシアの国営会社 T55戦車、PT76戦車など」との記事でロシア軍の戦車不足を伝えた。 「元記事を配信したのは共同通信で、ロシアの大統領府が発表した内容を伝えました。それによるとロシア国営映画会社モスフィルムがプーチン大統領に《映画撮影用に保管していた28両のT55戦車、8両のPT76戦車のほか、歩兵戦闘車6両、けん引車8両を提供した》そうです」(同・軍事ジャーナリスト) モスフィルムの歴史は古く、ソ連時代はプロパガンダ映画の制作でも知られた。本物の戦車を国から提供され、撮影に使用。記事にあるT55戦車やPT76戦車は1950年代に開発、製造されたもので、最前線に投入することは無理でも、後方支援に使用する性能は充分にある。 とは言え、映画会社が所有していた戦車であることは間違いない。ロシア軍の“台所事情”が苦しいことが分かる。
「鹵獲」の大きな戦果
「なぜロシア軍の戦車が不足しているのか、謎を解く鍵はORYXが発表している《534台の鹵獲》です。鹵獲とは敵軍の兵器を奪い取って自分たちが使うことを意味します。実は日本など一部の国を除き、世界の戦車生産国は戦車の新規生産には消極的なのです。新しい戦車を生産するより、現用の戦車を改良し、現代の戦場で通用するよう“アップデート”するほうが効率的です。さらに戦場で故障、破壊された戦車は救出して現地で修理すれば、再び貴重な戦力として投入することが可能です」(同・軍事ジャーナリスト) アメリカやイギリス、フランス、ドイツといったNATO(北大西洋条約機構)の主要加盟国は、戦場で被害を受けた自軍戦車の救出を重視し、そのノウハウを積み重ねてきた。 「ウクライナ軍は緒戦で深刻な兵器不足に直面しましたから、使えるものならロシア軍の兵器でも何でも使いました。そもそもウクライナは東西冷戦下でソ連軍の兵器を製造し、ワルシャワ条約機構軍の一員としてNATOと対峙してきたのです。ウクライナ軍が使ってきた兵器はソ連製で、ウクライナの戦車兵はロシア軍の戦車のほうが容易に操縦できます。こうしてウクライナ軍は自軍やNATOから提供された戦車が破壊されると回収に力を注ぐだけでなく、ロシア軍の戦車を破壊してもなるべく鹵獲しようと知恵を絞ってきたのです」(同・軍事ジャーナリスト)