事前の運賃確定は大きな壁 「事務員の負担が増えれば意味がない」と事業者訴える 11月に鹿児島県でも始まった日本版ライドシェアに「制度複雑」「実態と乖離」の声
住民や観光客の移動手段が乏しい「交通空白」解消を目的に、4月導入された日本版ライドシェアの運用が鹿児島県内でも11月から始まった。地方の細る公共交通を補う切り札となる可能性がある一方、県内では様子見の動きが根強い。国は参入要件を緩和して普及を促すが、運用を担うタクシー事業者からは「制度が複雑」「地方の実態と乖離〔かいり〕している」と声が漏れる。 【関連】本業のスキマ時間に収入増…これは魅力! 日本版ライドシェア県内初運用、市長も期待「市民の足になれば」 伊佐市
「配車アプリでキャッシュレス決済が前提だったのに、準備を進めるほど必要性が分からなくなった」。8月下旬、県内で初めてライドシェア参入の許可を得た「まいにち交通」(鹿屋市)の宮田正広所長(60)は困惑する。 同市ではタクシー台数がピーク時の10分の1程度まで減った。宮田所長は「住民の日常生活に支障を来す」といち早く手を挙げ、国の指針に沿ってアプリ導入の検討を始めた。 準備中の9月、電話での配車や現金支払いでの参入が可能となった。アプリをタクシーともひも付けようと考えたが、配車回数が増えると手数料も増す。「検討項目が多く負担も大きい。運用開始は見通せない」と宮田所長は声を落とす。 ◆ 日本版ライドシェアは4月、国指定の12区域から始まった。いずれも大都市で、アプリ配車が進んでいた。国は全都道府県で展開したい考えだが、運行曜日や時間帯といった規制も足かせとなり広がりを欠いた。 9月になり地方部に限り柔軟な運用を認め、電話配車や現金決済も可能とすると、全国で参入意向が相次いだ。県内でも11月末で16、うち9事業者に許可が下りた。一部は導入していた配車アプリを活用するものの、大半は電話配車や現金決済での運用を模索する。
ただライドシェア特有の「事前の運賃確定」が障壁となっている。電話配車では、地図アプリなどで距離を確定した上で、距離制運賃に時間料の代わりとなる営業区域ごとの係数を掛けて料金を算出、事前に客側へ示さなければならない。「事務員の負担が増えれば意味がない」。事業者は異口同音に訴える。 ◆ 電話配車や現金払いで11月23日に県内初の運用を始めた下小薗タクシー(伊佐市)の下小薗充社長(68)は「まだまだ課題は多い」と漏らす。そもそも地方は人口減少で担い手がいない。登録ドライバーは自身と事務員2人を含む4人。新規は1人にとどまる。 料金面でも懸念は残る。都市部と違い地方は信号機や渋滞は少ない。それでも係数を掛ける時間料が発生するため、メーター計測のタクシーよりライドシェアが割高になるケースが考えられる。下小薗社長は「地方の事情に沿う運用にできないか」と改善を訴える。 国も運賃多様化やタクシー事業者以外の参入などを検討する。九州運輸局の担当者は「始まって間もない制度で事業者や業界からの課題点や要望は本庁とも共有している。より良い制度にしていきたい」と話した。
■日本版ライドシェア 旅客運送に必要な2種免許を持たない一般ドライバーが、自家用車でタクシー営業できる制度。タクシー事業者が実施主体となり、ドライバー募集や安全管理、事故対応などを担う。地方部では現在、原則として金と土曜の午後4時台から翌日午前5時台に区域内のタクシー台数の5%を上限に運行できる。国土交通省によると、運行できる曜日や時間帯、供給車両の上限台数などは事業者からの申し出があれば拡充できる。
南日本新聞 | 鹿児島