スクエアプッシャー『Ultravisitor』20周年 真鍋大度が語る、間近で見た「鬼才の凄み」
『Ultravisitor』はがっつり向き合うべきアルバム
─20周年を記念してリイシューされる今回のタイミングで、新たに『Ultravisitor』に出会う若いリスナーもいると思いますが、真鍋さんのおすすめの聴き方はありますか? 真鍋:これをまだ聴いたことがないなんて羨ましいです。特に『Ultravisitor』はBGMとして何かしながら聴くのには向いていないアルバムだと思うので、スピーカーで大音量で聴くのが難しかったらヘッドフォンでも、最初から最後までがっつり時間を作って向き合って聴くのが良いんじゃないかなと思います。今の時代はどうしても簡単に聴ける環境が整っていて、僕もそうすることが多いですけど、がっつり向き合ってもすごく楽しめるアルバムだと思います。僕は目をつぶって聴くことが多いですね。 ─今の時代、アルバム一枚と向き合って聴く機会は減ってしまったかもしれませんね。 真鍋:いろんな楽しみ方が出てきて良いと思いますし、僕自身もそうしていますが、僕なんかはアルバムを買ってきたら部屋を掃除してお香を焚いて友達を呼んで一枚聴くようなことをやっていた世代なので、そういう楽しみ方もあるからやってみて欲しいなと。 ─現在活動している若いアーティストにとって『Ultravisitor』はどのような作品になっていると思いますか? 真鍋:この頃の作品は本当に良いものが多くて、今の時代、いろんなツールができて便利に簡単になって、情報もいくらでも手に入れられるようになったのに、この時期の作品を超えるものが作れる人は本当に一握りだと思うんです。だからすごく考えさせられます。僕のやっているオーディオ・ヴィジュアルも今はすごく簡単になってきましたけど、当時の〈Warp〉のMVなどと比べても劣っていると感じてしまうことも多いです。誰でも同じようなことができるようになったのは良いと思う一方で、パイオニアたちの作品の強度の高さは昔の作品を観たり聴いたりするとあらためて感じますね。だからこそ、若い人たちがこれを聴いてどう感じるのかすごく気になります。 それにトムの場合、コンピューターを使うことで彼自身がどんどん大変になっているんです。コンピューターを使うことで楽になることが今はすごくたくさんあると思うんですけど、彼はそれに対応して演奏を進化させなきゃいけないという試練を自分に与えるためにコンピューターを使っている。一般的には生活や仕事を便利にするために使うのに、彼はそれと真逆な使い方をしているんです。 もっと言うと、機械で生成していたとしても彼は作り終わった後にかなり直しているんですよね。もちろん人間だけでは作り出せないリズムだけど機械が作り出したものをそのまま出すようなことはほとんどやっていない。機械が生成したものをちゃんと自分がコントロールしている。そのこだわりのスゴさは別次元です。コラボレーションしているのはすごく光栄なことだし、ありがたいですけど、それでも今も別次元の人だなと思いながらいっしょにやっています。レベルが違うので、本当に。自分と並べて話せるような存在じゃないんです(笑)。 ─最後に、真鍋さんが目にしたトムのおちゃめな一面があればぜひ教えてください。 真鍋:ツアーの最後の日に打ち上げで、2人でB2Bをやる機会があって。クール&ザ・ギャングの「Summer Madness」という曲があって、この曲は一般的にオリジナルの方が良いとされていて、僕もオリジナルバージョンの方が好きなんですけど、そのときオリジナルが見つからなくて、とりあえず僕がライブバージョンを掛けたら「お前わかってないな!この曲はオリジナルバージョンだろ!」って冗談混じりにダメ出しされたのは面白かったですね(笑)。ツアーが終わってオフになると彼はDJを遊びでやってくれたりもするんです。それまではずっとストイックなんですけどね。 --- スクエアプッシャー 『Ultravisitor (20th Anniversary Edition)』 発売中 ◎日本限定高音質2枚組UHQCD仕様 ◎日本語帯付き3枚組LP ◎輸入盤2枚組CD ◎輸入盤3枚組LP ◎Tシャツ付セット 真鍋大度 1976年東京生まれの真鍋大度は、音楽家の両親のもと、幼少期から音楽やシンセサイザーを楽しみ、ビデオゲームやプログラミングを通じてインタラクティブな表現に触れて育つ。若くしてヒップホップカルチャーに没頭しDJとして活動、その後プログラミングとジャズバンドでの活動を通じてデジタル表現の領域を広げていく。東京理科大学で数学を学んだ際にはIannis Xenakisの影響を受け、音楽生成における数学的アプローチの研究を始め、これが後の創作活動の基盤となる。 エンジニアとしての経験を経てメディアアートを学んだ後、2006年にライゾマティクスを設立。演出振付家MIKIKOと共にPerfumeとELEVENPLAYのコラボレーションを通じて、テクノロジーと身体表現の融合を探求し、その革新的な表現はリオ五輪の閉会式での「フラッグハンドオーバーセレモニー」のAR演出など大規模プロジェクトへと発展する。また、坂本龍一、Björk、Arca、Nosaj Thingとのコラボレーションや、OK Go、Squarepusher、Grimes、Holly、Machinedrum、FaltyDLの映像演出やシステム開発を手がける。その独創的なAudio Visualパフォーマンスやインスタレーション作品は、Sonar Barcelonaをはじめとする世界各地の国際フェスティバルで発表されている。 近年は、神経科学者や研究者との協働を通じて、生命と機械を融合する作品へと領域を拡大。Xenakisの研究を発展させた3次元音響生成ソフトウェア「PolyNodes」の開発や、培養神経細胞を用いた独自のバイオフィードバックシステムを用いた作品の制作を行っている。 音楽と数学という原点から、最先端のバイオテクノロジーまで、アート・テクノロジー・サイエンスを横断する表現を追求。現在はStudio Daito Manabeを主宰し、ダンサー、研究者、アーティストとの協働を通じて、人間と機械、現実と仮想の境界線を探求する革新的な作品を展開している。
Daiki Takaku