「ガラパゴス音楽」とは呼ばせない ...日本人アーティストに全米が夢中──BAND-MAID/新しい学校のリーダーズ/YOASOBI/藤井風/XG
「YOASOBI」はホワイトハウスにも
今年のコーチェラには、よりメロディックな楽曲でアメリカの音楽ファンをつかんだ日本人ユニットも出演した。コンポーザーのAyaseとボーカルのikuraのデュオ、YOASOBIだ。 彼らの曲作りは一風変わっている。日本の小説イラスト投稿サイトに掲載されたストーリーに着想を得て、Ayaseが楽曲を作り、ボーカロイドの初音ミクを使ってデモ音源を制作。ikuraはそれを聴き、どう歌えば物語が伝わるかを考え、楽曲に命を吹き込んでいく。 2人は今年4月、アメリカで千載一遇の舞台に立った。訪米した岸田文雄首相を歓待するため、ジョー・バイデン米大統領がホワイトハウスで開いた公式晩餐会に招かれたのだ。 「昨年はYOASOBIの『アイドル』と藤井風の『死ぬのがいいわ』が世界的にヒットした」と、ルミネイトのコシンスキーは言う。「この2曲がグローバルな成功を収めたのには、アニメとショート動画の力が大きい」 「アイドル」はテレビアニメ『【推しの子】』の主題歌。日本語の楽曲としては初めてビルボードのグローバルチャートでトップに輝いた。
タイのTikTokユーザーがきっかけに「藤井風」
シンガーソングライターである藤井風の「死ぬのがいいわ」は、タイのTikTok(ティックトック)ユーザーたちが好きなアニメなどの動画にこの曲を合わせた投稿を次々と行ったことをきっかけに、アジアや欧米で大ヒット。 音楽配信サービスのスポティファイでの再生回数は5億回を突破した。今年5~6月にアメリカでのツアーを成功させた藤井は、国境や民族の壁を越えたボーダーレスな音楽活動を目指している。
即興ラップでブレイク「XG」
昨年10月、米音楽誌ビルボードの表紙を飾るという快挙を成し遂げた7人組のガールズグループがXGだ。アメリカで大成功しているブラックピンクなどKポップのガールズグループのテイストを取り入れ、磨き抜かれたダンスとラップパフォーマンスで世界を目指す。 プロデュースを手がけたのは、日本の大手エンターテインメント企業であるエイベックス。同社も世界的な事業展開を目指し、18年にロサンゼルスに統括拠点を設置した。 主に英語と韓国語で活動するXGがブレイクしたきっかけは、YouTubeとTikTokで公開したサイファー動画だ。サイファーとはラッパーが輪になって次々に即興ラップを聞かせること。 XGの動画では、ラップ担当のメンバー4人がヒップホップの名曲に乗せてそれぞれの持ち味を生かしたラップを披露。その独創性と高度なラップスキルが話題になり、この動画は爆発的に拡散された。 ハードロック、メロディックなポップス、R&B。今や多様な日本発の音楽がアメリカに浸透しつつある。 Jポップが国内でしか通用しないガラパゴス音楽と呼ばれたのは過去の話。日本のアーティストと音楽業界が世界に羽ばたく新時代は既に始まっている。
ロブ・シュワルツ(ライター、元ビルボード誌東京支局長)