再生可能エネルギーの接続拒否 ビジョンなきエネルギー政策の帰結だ 共同通信社・井田徹治
発電と送電が分離され、送電網を所有、管理する送電会社があれば、需給の調整は今よりはるかに柔軟性を増し、再生可能エネの大量受け入れも可能になる。FITの下で再エネの電気を優先的に受け入れることを定めているドイツでは、送電会社がさまざまな技術を駆使して需給調整を行い、再エネの拡大に対応している。「大量の再エネのためには多額の投資をして送電網を整備しなければならない」というのが日本でよく聞かれる主張だが、ドイツの経験は既存の送電網の活用だけでも、再エネの比率をかなりの数字にまで引き上げられることを示している。問題は「再エネを主、その他は従」と国の政策の中で明確に位置付けるかどうかである。 根源的な問題は、日本のエネルギー政策に確固たる定見やビジョンが存在しないということだ。 日本でも福島原発事故後に「電力システム改革」が動きだし、広域の需給調整を行う機関の設立や将来的には発電会社と送電会社を別会社とすることなどが決まっているが、既存の電力会社への配慮もあって、改革の歩みは遅い。「原発依存度の低減、再生可能エネルギーの拡大」を言いながら、原発を重要なベースロード電源と位置付けて再稼働を後押しし、「自由化による競争環境の中では原子力が不利になる」として原発を抱える電力会社の経営に配慮した原発優遇措置の検討を始めている。FITの導入によって再エネを爆発的に普及されることを目指していたのに、大電力会社の言い分を元に、受け入れ量の制限などをあわてて検討する。定見のなさは明白だ。 明確な政策がビジネス界に明確なシグナルを出さなければ、原発事故後に迫られた日本のエネルギー改革は実現できず、原発依存、再エネ軽視の状況がいつまでも続くことになる。それを多くの市民が望んでいるとは思えない。 --------- 井田徹治(いだ てつじ) 共同通信社 編集委員兼論説委員。科学部記者、ワシントン特派員などを経て現職。環境とエネルギー、貧困・開発問題がライフワーク。著書に「ウナギ―地球環境を語る魚、「生物多様性とは何か」(ともに岩波新書)など多数。