ジェットコースターやロープウェイが通勤車両に?…日本発の「新しい乗りもの」が、いま世界から注目を集めているワケ
ジェットコースターが通勤電車に?
「路線バス以上、鉄道以下」の移動需要を狙う乗り物の選択肢は、何もエコライド・Zipparだけではない。その中で、各都市で敷設が検討されている要因は、これまでの鉄道より「ローコスト・ローテク」であることだ。 実は、この2陣営の鉄道は、既存の「アリモノ技術」をうまく活用しており、仕組みは意外と単純だ。だからこそ、コストを抑えた建設や維持が可能となっている。 まずエコライドは、遊園地の遊具を製造する泉陽興業(本社:大阪市浪速区)が持つジェットコースターの技術を、鉄道に応用したものだ。その仕組みは高低差(位置エネルギー)を利用したもので、駅を出た列車はワイヤーで高所まで引き上げられ、そのまま下っていき、駅ホームにピタリと停車する。スルスルと坂を下っている間は、電気や燃料の消費は最低限で済むのがセールスポイントだ。 ただ、本来のジェットコースターはスピードとスリルを味わうもので、そのまま通勤電車に応用する訳にもいかない。そこで、モビリティ(乗り物)研究の第一人者である東京大学・須田義大教授の研究室と協力し、1/5ほどのG(加速度)、約20kmの表定速度(LRTとほぼ同様)で走行できるシステムと、乗り心地の良い車両を開発。2006年から東京大学千葉実験室(千葉市稲毛区)で3年間の走行試験を繰り返し、実用化への準備を進めていた。
高度な技術がネックになることも
一方でZipparは、日本中の観光地で活躍するロープウェイが技術の根幹となっている。大きな違いは「2本のロープを掴み、車両に搭載したバッテリーで自走する(ロープウェイは1本のロープを掴み、外部から動かす)」「カーブや分岐を作れる(ロープウェイは基本的に一直線)」といったところだ。 車両の動力源も、現段階の試作機は電気自動車(EV車)の足回りの下にゴンドラタイプの車両を付けたもので、メンテナンスの手間も鉄道車両のエンジンよりはかからない。 また通常のロープウェイ車両では設置が困難なエアコンもしっかり搭載されているが、これも「カーエアコンの冷気をダクトで引っ張ってZipparの車両に流す」という、豪快にしてアナログな手法が取られている。 ありそうでなかったシステムを持つZipparは、慶応大学理工大学の学生であった須知高匡氏(当時。現在は開発会社「Zip Infrastructure株式会社社長)が発明。各方面からの資金調達だけでなく、現在では「ヤシマキザイ」「長大」「高見沢サイバネティックス」など、鉄道ビジネス関連企業の協力も仰いでいるという。 一方で、エコライド・Zipparと同様に「路線バス以上・鉄道以下」の輸送能力を持っていた「スカイレール」が、唯一の採用路線(広島県・スカイレールみどり坂線)の廃止とともに消滅した。また少し前にはなるが、採用例が少ない「VONA規格」を採用していた新交通システム(愛知県・ピーチライナー)も廃止に追い込まれている。 両者に共通するのは「独自性の高い技術」「希少な部品」の存在だ。特に「スカイレール」は三菱重工・神戸製鋼が総力を挙げて開発したものの「駅進入部でロープ駆動からリニア駆動に替わる」「急こう配を駆け上る」という高度な技術がそのままオーバースペックとなり、途中駅の設置の難しさや保守費用がネックとなり、各地での懸命なセールスは実らなかった。 そして、鉄道のフォーマットとして普及せず、技術が独特であったがゆえの部品の希少化は、スカイレール・ピーチライナーともに共通する。最終的に、どちらも大規模なメンテナンスの時期を乗り越えられずに廃止に至った。 その点、エコライド・Zipparは鉄道業界以外の「アリモノ技術」を有効活用しているため、技術のガラパゴス化や、高コストな特注品が生じる可能性が少ない。開業後に設備を引き渡されて鉄道運営を行う側の手間を考えると、ローコストで手間をかけず維持ができて、部品の汎用性が高い2陣営に国内外で人気が集まるのは、ある意味自然な流れなのかもしれない。