石破新首相の「防災省創設」にかける思い 災害対策で「国民の命が最優先」訴えると〝左翼〟と揶揄も
自民党の新総裁に選出された石破茂氏が1日召集の臨時国会で第102代首相に指名される。かねて「防災省の創設」を訴えてきた石破氏。実現は決して容易ではないが、首相在任中にその礎を築くことができるか。これまでの取材から同氏の思いをまとめた。 【写真】核シェルターをテーマにしたシンポジウムに参加した石破茂氏(2022年8月) テレビ東京系「家、ついて行ってイイですか?」などのヒット番組を企画・演出してきた映像ディレクターの高橋弘樹氏が9月28日に更新した自身のX(旧ツイッター)で石破氏の人となりに触れていた。昨年3月、立ち上げたばかりのYouTube番組「ReHacQ(リハック)」に出演した石破氏について「フラッと雑居ビルに1人で来てくれ、サーっと1人で帰って行きました」とつづった。 SPや秘書などを付けず、単身で行動するフットワークの軽さ。そんな〝庶民性〟も感じさせる石破氏の姿は、22年8月に東京・赤坂の雑居ビル内で行われたシンポジウムでも同様だった。会場に1人で現れ、終了後も時間の許す限り、一般参加者と気さくに立ち話をして去って行った。 その会場で、石破氏は「防災核シェルター」の必要性について、1945年3月10日の東京大空襲を例に挙げて説明した。 「当時、空襲時にも退去を禁止して消火を義務付けた『防空法』によって、ホウキとハタキ、バケツリレーなどで焼夷弾の火を消せ、逃げるな…という法律を市民に強制し、それで大勢の人が死んだ。ロンドンはドイツから57日間も爆撃を受けて死者が4万3000人だったのに対し、東京は数時間で10万人が亡くなった。それでも『おかしいじゃないか、なんで政府は私たちを守らないのか』という怒りが国民から出て来ない。言っても政治家に耳を傾けてもらえない。だが、そこで諦めたら終わり。今後も言い続けていかなければいけない。そう言うと、『お前は左翼か』と言われるのですけど、どんな政権であれ、国民の命を守ることが国家にとって本当に大切なことであり、そんなことを言う人に限ってシェルターには後ろ向きです。歴史を忘れている」 保守政治家として国民目線の発言をすると〝左翼〟と揶揄されてしまう現状を懸念。「右」だの「左」だのという次元を超えたところで、石破氏は「票や金ではなく、いかに国民を守るかを考えるために政治家をやっているんじゃないですか。空襲時に市民を守る発想がなかったこと、それは今も同じではないか。防衛費を2倍、3倍にしようが、市民が死んでしまっては、その国はもたないです。そういう議論をしていかなければ、この国は終わる…と私は思う」と強調した。 今年1月、元日に発生した能登半島地震を受け、東京・永田町の衆議院第二議員会館で石破氏に「防災」をテーマに話を聞いた。 同氏は「阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震があって、今回の能登半島地震が起こったわけですが、以前と同じように避難所はあのような有様で、災害関連死も増えている。一番困難な状況にある人たちに希望を持ってもらい、明日以降の生活を立て直していこうという気持ちになってもらえる国でありたいと思いますが、現状はどうか」と問題提起した。 さらに石破氏は「欧州で有数の地震国であるイタリアは災害対策の国家機関を創りました。震災が起こると、真っ先に被災地にコンテナ型のトイレが届き、その次にキッチンカーがやってきて、さらには簡易ベッドが届く。日本でも『防災省』的な総合機関がないと、常に災害対処は補正予算と特別措置法で行わざるを得ない。結果的に計画的な備蓄や訓練は困難です」と説いた。 だが、現状はどうか。石破氏は「日本国内でシェルターが整備されないのと『防災省』ができないのは同じような理由によるものなのではと思います」と指摘。その上で「災害対応体制の見直しというところまで踏み込んだ議論をすべき。被災者のQOL(※クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を実現することが最も望まれているのではないでしょうか」と提言した。 浮上していた次期総裁の可能性にも問うた。石破氏は「誰が総裁になるとか、ならないとかという話ではなくて、今、この国の政府としてやらなければいけないことは、国民一人一人の生命、財産を守るためにどのようなの政府をつくるか、ということでしょう」と熱弁した。 こうした確固とした政治信条も今後、党内の政治力学の中で発揮することは簡単なことではないかもしれない。また、首相となれば単独行動も難しくなるだろう。「制約」が増す中、どこまで理想の実現に近づいていけるか注目したい。 (デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)
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