世界初の「鉄道・バス両用」これでいいの? 全運休となったDMV 「やってることバスと同じ」という疑問
日本では実現までに59年を要した
線路も道路も走行可能なデュアル・モード・ビークル(DMV)。世界で初めて本格運行に漕ぎつけた、四国南東部の阿佐海岸鉄道阿佐東線でしたが、2024年10月初め、同社はDMV1台に不具合が見つかったとして、全車両の精密検査を行うために11日(金)まで運休しました。 筆者(安藤昌季:乗りものライター)は8月下旬、DMVに乗車。運行開始から3年が経とうとする中、2023年には1日13往復(平日)あったダイヤが8往復へ減便されていました(多客期は増発)。縮小傾向にも見えますが、期待された室戸岬への直通効果はあったのでしょうか。 見たことある? 道路が線路になる瞬間(写真) そもそもDMVのように鉄道にもバスにも可変できる乗りものは、1960(昭和35)年ごろのドイツで、バスの運転席側に鉄道の台車を付け、後輪ではタイヤをレールに設置させた「鉄道を走れるバス」として研究されました。バス主流の地域から乗り換えなしで鉄道へ乗り入れられたら、広域集客に有利との考えからです。 日本でも国鉄が1962(昭和37)年、英語で「両生類」を意味する「アンヒビアン」バスの開発を開始しますが、車両をジャッキで持ち上げバスの下に鉄道の台車をセットする構想に無理があり、開発は失敗しました。 その後2004(平成16)年に、JR北海道がマイクロバスを改造した定員34名の試作車「サラマンダー901」を製造。翌年には2両を背中合わせに連結できる、定員16名の第二次試作車911・912号車も製造しました。 しかしJR北海道は安全対策と新幹線建設を優先させるとして、2014(平成26)年に導入を断念。技術を継承した阿佐海岸鉄道が2017(平成29)年、DMVの導入を決めたのでした。
DMVはどんな車両?
阿佐海岸鉄道は2018(平成30)年の時点で、1992(平成4)年時の2%しか定期券発売数がないという利用状況で、通常の気動車では輸送力を持て余していました。そこでDMVという珍しい車両による観光資源化、ランニングコストの削減、観光地・室戸岬への直通、高齢化に対応したきめ細やかな交通網の整備、災害復旧のしやすさなどの利点から、導入に踏み切ったのです。 完成したDMV-93形は、鉄道モードでは車輪が出て、後輪で線路を推進するもので、ジャッキは不要でした。トヨタ自動車のマイクロバス「コースター」がベースで、定員は座席18名、立席4名、乗務員1名の合計23名。全長8.06m、全幅2.09m、自重5.85tという車両です。もともと運用していたASA-301形気動車の定員100名、全長16.3m、全幅3m、26.2tと比較しても超小型といえます。なお、最高速度は70km/hです。 室戸岬方面まで直通するのは、土日祝の1日1往復のみです。DMVの始発となる海の駅「とろむ」まで、土佐くろしお鉄道の奈半利駅(高知県奈半利町)から高知東部交通バスに乗り、室戸営業所から歩きました。なお、阿佐海岸鉄道ホームページを見ても、JR四国や高知東部交通バスなど、他の交通機関との乗り継ぎがわかりにくいです。観光集客を考えるなら、現地への行き方・帰り方の情報は必須だと思う次第です。 座席は1+2列で1人掛けが幅44cm、2人掛けが1人46.5cm。ひじ掛けはありませんが、座り心地はなかなか。窓と座席の位置は一致し、1B席と2D席からは前面展望が楽しめます。ただし飲食禁止です。筆者以外の乗客は1名のみで、13時52分に出発しました。