「妊娠中」の「感染症」が次の世代に与える影響…マウス研究で示された「ウイルス感染」と「自閉スペクトラム症」との驚きの関連性
「お腹の調子が悪くて気分が落ち込む」という経験がある人は多いのではないだろうか。これは「脳腸相関」と呼ばれるメカニズムによるものだ。腸と脳は情報のやりとりをしてお互いの機能を調整するしくみがあり、いま世界中の研究者が注目する研究対象となっている。 【画像】「日本人はアメリカ人より発症率が高い」…「大腸がん」の「驚くべき事実」 腸内環境が乱れると不眠、うつ、発達障害、認知症、糖尿病、肥満、高血圧、免疫疾患や感染症の重症化……と、全身のあらゆる不調に関わることがわかってきているという。いったいなぜか? 脳腸相関の最新研究を解説した『「腸と脳」の科学』から、その一部を紹介していこう。 *本記事は、『「腸と脳」の科学』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。
妊娠中に感染症にかかると子が自閉症になりやすい?
ヒトを対象とした疫学調査によると、妊娠中に母親がインフルエンザや他のウイルスなどの感染症に罹患すると、その子供は自閉スペクトラム症になりやすいことが報告されています(※参考文献6-7)。 そこで、マウスにおいて、妊娠マウスに疑似ウイルスを注射する実験が行われました。マウスに実際のウイルスを注射すると病気になり死んでしまう可能性があるので、疑似ウイルスを使います。ここでは、ウイルスに含まれる核酸を模倣した2本鎖RNAを注射しました。 すると、疑似ウイルスを注射した妊娠マウスから生まれてきた赤ちゃんは、疑似ウイルスを注射しなかった母親から生まれてきた赤ちゃんよりも、自閉スペクトラム様症状を示す割合が高くなりました。つまり、マウスにおいてもヒトと同様に、母親が感染症に罹患すると、その子供が自閉スペクトラム様の症状を示すことが確認されたのです(※参考文献6-8)。 いったい、どうして感染症が自閉スペクトラム症と関係するのでしょうか? ウイルスや細菌などに感染すると、私たちの体内では炎症反応を引き起こすサイトカインが産生され、炎症によって体を病原体から防御しようと試みます。例えば、マウスに疑似ウイルスを注射して感染を模倣すると、免疫細胞(17型ヘルパーT細胞:Th17細胞)が増殖し、サイトカインであるインターロイキン-17(IL-17)が大量に産生されます。このサイトカインは、胎盤を通過し、赤ちゃんマウスの脳へ侵入することがわかりました。すると、脳内の細胞(ニューロンやアストロサイト)のインターロイキン-17受容体に結合して、それらの細胞を興奮させることで、自閉スペクトラム様症状を引き起こす可能性が示唆されました(※参考文献6-9)。