オーバーツーリズムの先輩・ハワイから日本へアドバイス。外国人による混雑・迷惑行為の対処は「地域住民のプライドを守ること」
旅行・観光業界における年間最大規模のイベント「ツーリズムEXPOジャパン2024」が9月26日~29日に東京ビッグサイトで開催された。 来場者数は、目標として設定した18万人を超える18万2934人(10月7日確定値)で、実際の会場に触れた肌感覚でもここ数年で一番の盛り上がりだったことは間違いなく、後半28日~29日の一般日には混雑で一部入場規制がかかるなど、国内/海外旅行気運の高まりを感じられる催しとなった。 この会期中の来場者投票で決まるブースグランプリを、ハワイ州観光局と韓国観光公社が獲得している。 若年層のみならず、母子旅などでも人気があり、近距離かつ弾丸旅行も可能なお隣・韓国がグランプリを獲ったことに意外性はないが、長引く円安と物価・宿泊費の高騰で話題に挙がりやすいハワイがグランプリを獲得したことは、「海外旅行といえばハワイ」の期待の高さを改めて実感させるものだった。10月半ばにANA/JALが公開した12月~2025年1月発券分の燃油サーチャージは、6か月ぶりに引き下げへ転じたところであり、ホリデーシーズン、卒業旅行シーズンに向けて追い風の一端となりそうだ。 こうした現状について、ハワイ州観光局はどのように分析して今後の誘客を考えているのか。日本支局長のミツエ・ヴァーレイ氏とハワイ州各島の観光局局長に聞いてみた。同席したのは、オアフ観光局 局長のノエラニ・シェリング-ウィーラー氏、ハワイ島観光局 局長のスコット・パウリ氏、カウアイ島観光局 局長のスー・カノホ氏。 ■ 若年層には「ハワイにこんなところが?」の体験・イメージを伝えていく 観光局も数字を明らかにしているが、日本からのハワイ旅行者は70%がリピーターと言われている。そんななか、費用を理由に行きたくても行けない、コロナ前からしばらく行っていないというリピーターに向けて、「いま改めてハワイに行きたいと思わせるにはなにが必要か」という問いについて、ヴァーレイ局長はリピーターには複数の層がいると指摘する。 1つはハワイの気候・空気感を愛する根っからのファン。もう1つはタイムシェア・レジデンスを保有して年に1~2回ハワイを訪れる層。そしてフラなどの文化・歴史に興味を持ち、ハワイに学びなどの動機を持っている人たち。 こうした層はコロナ禍で渡航できず、仮に3~4年の空白期間があったとしても積極的に新しい施設やホテルのリノベーション情報を追っており、新しくなったオアフ・ワイキキを見たいと考えている。そこで観光局としてもメールマガジンやインスタライブなど動画配信を通じてコンテンツの供給を行なった。結果、視聴者が増えたり、ウェビナーの参加率が上がったりといった効果が現われたという。 一方で、リピーターに頼りきりでは若年層の掘り起こしが進まず、今後10年~20年の先を見たときに市場がしぼんでしまう可能性もある。 観光局が感じている障壁は、やはり「日本人の海外旅行に対するセンチメント(心情)」で、海外に興味を持つ若者が減っている実感があるという。コスト面についても、「肌感でかつての1.5倍~2倍程度になっているのは否めない」という前提はありつつ、まずは「お金をかけてでも行きたい、あるいはなんらかの記念で行く」など強い動機を持っている旅行者にアプローチしていく。 さらに実際の若年層に対しては、旅に興味を持っている若者をターゲットに、「ハワイでどんなことができるか、こんなところがハワイにあるんだ」と周知することが必要で、体験やイメージを重視していく。その入り口としてYouTubeチャンネルの刷新を行なったほか、ハワイ現地には日本語で情報を発信しているインフルエンサーが多くあり、自発的に最新情報を発信している。今後はそんな彼らと協業を進めていきたいという。 また、具体的に短期的な施策としては、旅行会社と連携して「早めに申し込むと安い、特典がつく」といった付加価値のあるキャンペーンを展開する。単にセールで激安感を出すという手法ではなく、お得感を感じてもらう取り組みをしていく。 ■ 訪日外国人によるオーバーツーリズム対策、先輩ハワイからのアドバイスは? 円安などを背景に日本人の海外旅行(アウトバウンド)の回復が遅れる一方、訪日外国人旅行者(インバウンド)は急速に回復して、国内はオーバーツーリズムによる混雑やゴミ問題、迷惑行為などの弊害も表面化している。 ハワイではコロナ禍で観光客がいなくなったことで自然環境が回復し、コロナ後はそれを守るために、ダイヤモンドヘッドやハナウマ湾などで事前予約制・1日の入場者数上限を設けたことが記憶に新しい。 こうしたオーバーツーリズムに対処してきた“先輩”であり、外国人旅行者の多いハワイが今の日本へアドバイスするとしたらどんなものがあるか、と聞いてみた。席上では、迷惑行為などへの対応で黒幕を張った河口湖の「富士山ローソン」が話題に挙がったが、ヴァーレイ局長は「そこに住んでいる人たちがなにを欲しているか、どこにプライドを持っているかを知ることが大事」だと話す。 ローソンに限らず、有名どころでは旅行者が増えすぎて市民がバスに乗れなくなった京都の例や、あるいはゴミ・迷惑行為の増加によって、最も影響を受けるのは地元で暮らす人たちだ。富士山を見せたくないのではなく、人が滞留して道路を塞いだり、ゴミが投棄されたりするのを止めたいのであって、両者がストレスなく過ごせて地元の観光収入が増加するならよい結果につながるだろう。 ハワイでも多くの人が押し寄せることで、自分たちの身近な自然が破壊されたり、住宅街まで観光客が立ち入ったりといった経験をしてきている。 古くからある歴史や文化、景観に敬意を払うこと、地域で暮らす人たちを尊重することと、来訪者が観光を楽しむことは両立できるはずだ。局長は、「問題点・危惧すべきことがあるとき、コミュニティとの対話が必要で、そこに住む人たちがなにを守りたいのかを見つけることが大切。SNSの台頭でこういう問題が起きているなら、SNSで問題提起するのもよい」と指摘した。 ちなみに、前述の京都は駅前と市内観光地を結ぶ特急バスを新設することで対処に動き出している。どちらかを遮断するのではなく、地域のプライドを守りつつ、よりよい未来のために対話を続けることで解決策が見つかるのではないだろうか。
トラベル Watch,編集部:松本俊哉