驚愕の精度で一致…「無限の宇宙」の正体を「素粒子」から暴ける理由
なぜごく初期の宇宙がわかるのか
私たちが持つ宇宙の歴史に関する観測データのなかで、ビッグバン原子核合成以前のものは、それ以降と比べると確実なものは少なくなります。しかし、この時期に何が起こったのかに関しても、現在私たちの知る物理法則を使って時間を遡ることにより、その大枠を知ることができるのです。 それによると、温度が約1兆度以上であった時代、年齢にすると1マイクロ秒(10⁻⁶秒)以前の宇宙には陽子、中性子はまだ存在していませんでした。また、湯川秀樹により最初に導入された、核力(原子核内で陽子や中性子を結合させる力)を媒介するパイ中間子などもまだ存在していませんでした。存在していたのは、それらの構成要素であるクォークや、電子などのレプトン(図1‒4を参照)、光子などです。クォークは、約1兆度以下の温度では陽子、中性子などの内部に「閉じ込められて」おり単体で取り出すことはできないのですが、それより高温の世界では通常の粒子として自由に振る舞っていたのです(図3‒1)。
誕生するやいなや劇的な変貌を遂げる宇宙
さらに時を遡って10⁻⁶秒よりもっと以前の、年齢にすると10⁻¹²秒ほど、温度が数百兆度程度の頃の宇宙では、よりドラマチックなでき事が起こったと考えられます。現在物質間に働く基本的な力として私たちが知っているものは、四つあります。電磁気力、重力、それに弱い力、強い力と呼ばれるものです(弱い力、強い力は、それぞれ弱い相互作用、強い相互作用と呼ばれることもあります)。ちなみに摩擦力や原子・分子間に働くファンデルワールス力、原子核中の核力などは、これらの基本的力から派生した二次的な力にすぎません。弱い力は崩壊と呼ばれる原子核反応に関係する力であり、強い力はクォークの閉じ込めに関係する力です。 これら四つの力は、その強さから到達距離、それが働く素粒子の種類に至るまで全く違う性質を持っているのですが、宇宙の年齢が約10⁻¹²秒以前にはこれらのうち電磁気力と弱い力は電弱相互作用として「統一」された状態にあったと考えられるのです(図3‒1)。 そして、この電弱相互作用が支配する宇宙では、クォークとレプトンの質量はゼロでなければならなかったことが理論的に示されています。つまり、宇宙が超初期の状態から膨張して冷える過程で、年齢が10⁻¹²秒ほどの頃に電磁気力と弱い力は私たちが知るように全く異なる力として分かれ、電子を含む素粒子(クォーク、レプトン)は初めて質量を持ったのです。 この驚くべき構造の変化は、ヒッグス場と呼ばれる空間に満ちている「もの」が凝縮することによって起こったことがわかっています。ここで場に関して少し触れると、20世紀の素粒子物理学で新しく得られた知見の最も大きなことの一つに、「私たちが真空と呼んでいる状態でも様々な場と呼ばれるものが存在している」というものがあります。この場の力学を記述する理論「場の量子論」は、現代物理学を学ぶ大学院生にとって必修ともいえる分野になっています。場に関しては、また後にお話しすることになるでしょう。