【解説】世界が注視する台湾総統選挙 本格的「三つどもえ」に 最終盤の注目点は
■「幻」に終わった野党統一候補
ここで、支持率変動の大きな要因となった野党候補一本化をめぐる経緯を振り返る。 野党が分裂した状態は与党に有利なことから、候補の一本化を模索する動きは以前からあり、10月に協議が本格化した。野党の国民党と民衆党は、総統選挙と同日に実施される立法委員(日本の国会議員に相当)選挙での選挙協力で合意したものの、総統候補の一本化には至らないまま11月24日の立候補の締め切りが迫っていた。 そうした中、11月15日、国民党の馬英九前総統が立ち会って協議が行われ、野党候補の一本化で合意したことが発表された。直後の世論調査は、統一候補が侯氏でも柯氏でも頼清徳氏の支持率を10ポイント以上上回る結果が報じられ、選挙戦の構図が一変した。 ところが、肝心の「どちらを総統候補とするか」で、つまずいた。双方の陣営が指名した世論調査の専門家による協議で、総統候補を決めることになっていたが、支持率の解釈をめぐり意見が折り合わず、18日に予定していた統一候補の発表が見送られた。立候補登録締め切り前日の23日にも、侯氏、柯氏、馬氏、朱立倫国民党主席、郭台銘氏が公開協議を行ったがまとまらなかった。24日に侯氏、柯氏がそれぞれ立候補登録を行い、野党候補一本化は「幻」に終わった。
■野党候補一本化交渉で侯友宜氏が「勝者」に
小笠原氏は、一本化交渉における侯友宜氏の立ち回りが、その後の支持率上昇につながっていたと分析している。 「侯氏は非常にうまく我慢した。(一本化で合意する前には)柯文哲氏から相当ばかにされたり、高飛車な発言をされたりしたがじっと我慢した。どっしりと構えて悪口も言い返さない姿に、侯氏の信頼感が見直された。結論として、野党間の駆け引きのドラマで、侯氏が勝った」 侯氏は11月の半ば頃まで世論調査で頼氏との差をなかなか縮められず、苦戦が続いていた。 「ひとつは柯文哲氏に票が流れていたこと。もうひとつは、立候補を模索していた郭台銘氏に票が流れていたこと。そして、地方派閥と呼ばれる勢力が、様々な利益を考えて侯陣営から距離を置いていたこと。この3種類の票が、侯氏から距離を置いたり離れたりしていて支持率が低く、相当苦しい状態だった」 「しかし、(野党候補一本化の)駆け引きで柯氏を蹴落とし、郭氏が出馬辞退に追い込まれたので、離れていた票が戻ってきた。それで、侯陣営が引き締まったのを見て、様子見していた地方派閥の勢力が国民党にまた戻ってきた。つまり離れていた3つの票、全部を取り戻すことに成功した」