【日本は地熱大国になれるか?】世界が羨むポテンシャル 純国産エネルギーで「地熱革命」を起こせ
JR盛岡駅から車を走らせること約80分。山道を縫うように進んだ先に、雄大な自然と調和したウグイス色の発電所棟と茶色の配管網が姿を現した。標高1130メートルに位置する安比地熱発電所(岩手県八幡平市)に到着すると、7月下旬にもかかわらず、半袖のシャツでは肌寒さが感じられた。 【図解】次世代地熱発電に関するイノベーションが進んでいる 出力1万4900キロワット(kW)を誇る同発電所は、今年3月に営業運転を開始した。しかし、地質の調査開始から運転開始に至るまでに四半世紀の年月を要した。安比地熱(同前)の菅野雄幸社長は「既存の地熱開発の難点は、最低10年以上というリードタイムです。地熱資源の調査や環境評価、井戸の掘削、発電所の建設など、越えるべきハードルは多い」と話す。 また、地熱発電の特有の仕組みが開発リスクを高めている。その仕組みはこうだ。地下1000~3000メートルまで浸透した雨水がマグマで加熱され熱水となり、岩盤の下やそのすき間に蓄えられることで「地熱貯留層」を構成する。ここに向けて井戸(生産井)を掘り、熱水や蒸気をくみ上げタービンを回している(次ページ図)。しかし、地熱貯留層を掘り当てることは容易ではない。安比地熱の兼子高志技術部長は「生産井を1本掘削するのに数億円のコストがかかります。事前に調査していても実際に掘削すると、貯留層に当たらない場合もある」と話す。 自治体や地元住民との合意形成も一筋縄にはいかないことが多い。八幡平市は1960年代から地熱発電で得られた蒸気を地元のホテルや民宿などに供給し、産業が発展したという経緯があるため、問題は生じなかった。しかし、多くの場合は、自治体や地元住民から建設に難色を示されたり、温泉事業者が地下資源の枯渇や温度低下を懸念し開発が難航したりするケースが少なくない。 安比地熱発電所の事業化を進めた三菱マテリアルには現在、国内4カ所で地熱発電所の開発計画がある。同社の山岸喜之再生可能エネルギー事業部長は「FIT(固定価格買い取り制度)やFIP(フィードインプレミアム制度)により、安定した収益が見込め、『出口』が保証されているため、事業性の絵は描きやすい。一方、開発リスクが大きく、投資に対するリターンが得られるまでに10年以上を要するなど、地熱開発の『入り口』には大きな課題があります。事業者のリスクを低減させるために、国主導の技術開発や地熱調査の拡充を期待したい」と話す。 火山活動が活発な日本は世界第3位の2347万kWの地熱資源量を有する「地熱大国」だ。地熱発電は太陽光・風力発電と比較し、24時間安定的に発電ができるベースロード電源でもある。しかし、その設備容量は約60万kWで、日本の電力消費量の約0.3%にすぎない。 2021年に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、30年の地熱導入量を148万kWと見込み、開発リスクの低減や技術開発のための予算確保などの支援策を実施した。しかし、発電所の新設は少なく、目標の達成に青息吐息の状況だ。