2024中学入試問題速報、国語で近年頻出の「新しい自由記述問題」が「読解が得意な子でも突然書けなくなる」理由とは
近年の中学入試国語で頻出する「自由記述問題」とは
2024年度の雙葉で出題された自由記述問題では、<長田弘『子どもたちの日本(にっぽん)』(講談社)>の文章中に出てくる「魔法の時間」という表現に傍線部を引いたうえで、次のような設問が用意された。 一見すると、受験生各々が考える「魔法の時間」の体験談を記述すればよさそうである。しかし、そう簡単ではない。あくまでもこの文章で用いられている「魔法の時間」とはどういう意味なのかを汲み取ったうえで、それに即した具体的事例を書かねばならない。 私はこのように文章内容を理解することを前提にした自由記述問題を「読解融合型」と呼んでいる(一方で、100%受験生オリジナルの意見や感想を求める自由記述問題を「読解分離型」と呼んでいる)。 2024年度の東洋英和女学院(A日程)では、NHKでドラマ化もされた<北村薫『ひとがた流し(朝日文庫)』(朝日新聞出版)>の文章を題材に、登場人物の「類」が「玲」に向けた言葉に線が引かれ、次のような問題が出た。 こちらも先ほどの雙葉と同様、「読解融合型」の自由記述問題である。ほかにも、2024年度の駒場東邦やフェリス女学院では、題材になった本文の内容に関わる会話形式の短文を読ませたうえで、受験生の意見や感想を記述させる問題を出題している。
自由記述問題で突然「書けなくなる」子どもたちの特徴
さて、ここまで2024年度で出題された自由記述問題のほんの一端を紹介したが、普段は読解問題を得意にしている子であっても、この手の問題になると手が突如止まってしまうことがある。 私の限られた観測範囲ではあるが、このタイプの子どもたちに一脈通じているのは、消極的な性格、言い換えれば、自らの意欲を表明する機会が乏しいという点である。こう書くと物議を醸すかもしれないが、例えば、保護者が饒舌であり、あまり自ら喋る機会を与えられなかったような子どもたちが多いような気がしている。 従来の読解問題は、「他者のことばに耳を傾け、その真意を推し量る」ことで得点できるものばかりだった。しかし、先に紹介した「読解融合型」の自由記述問題はこれだけでは不十分だ。ここでは、「他者のことばに耳を傾け、その真意を汲み取りつつ、それを自身の経験に適用して他者へ発信するスキル」が求められているのである。要するに、インプットだけではなく、アウトプットする姿勢が測られているのだ。 「読解融合型」の自由記述問題は、その学校の(入試難易度という意味での)レベルの高低に関係なく出題されるため、受験生であればこのタイプの問題を避けるのは難しい。仮に前年まで出題がなくても、突然出される可能性も考えられる。 できれば低学年の頃から、筋道だった意見を自ら表明し、自分の思いや考えを明文化するトレーニングを積むべきだろう。こう言うと、何か特別なプログラムを用意しなければいけないと思われるかもしれないが、実はそうではない。例えば親子で交換日記の習慣をつけるなど、些細な工夫を凝らすだけでよい。大事なのは、その取り組みを長く継続させることなのだ(実はこれが難しいのだが)。 本記事が小学生保護者のわが子に対するコミュニケーションの在り方を熟考できる機会になれば幸いである。 (注記のない写真:Graphs / PIXTA)
執筆:中学受験指導スタジオキャンパス代表/国語専科・博耕房代表 矢野耕平・東洋経済education × ICT編集部