テレビはどのように変わるのか。TVS REGZAが語る「大型化」「高画質化」の今
今年は掲載がずいぶん遅くなってしまったが、毎年恒例になっている、REGZA開発メンバーのロングインタビューをお届けする。 【画像】JEITA公開資料より筆者作成。オレンジの小型テレビは数が減り、50型以上の占める割合が圧倒的に増えてきた 日本市場にとってテレビとはどんな商品なのか? その姿は時代によって変わっている。本連載でのテレビメーカーへのインタビューは、単に新製品の機能を知るだけでなく、その背景にある「テレビとはなにか」を探る取材でもある。 REGZAチームには長年に渡り話を聞き続けており、ある種の「定点観測」ともなってきている。昨年のインタビューはこちらになる。 今年、REGZAは「有機ELもミニLEDも本気」として、ラインナップを強化し、特に「大型化」路線を進めている。 他社は「ミニLEDか有機ELか」、どちらを選ぶところが出てきた。それに対して、REGZAは明確に「両方推し」だ。その真意はどこにあるのだろうか? また、売り方の変化に合わせ、同社のプロモーションも変化してきている。特に大きいのが「公式YouTubeチャンネル」の存在だ。 それらについて、直接携わる人々から話を聞いた。 もうすぐ2025年がやってくる。そこではどんな変化があり得るのかを予測しながらお読みいただきたい。 今回ご対応いただいたのは、TVS REGZA株式会社・営業本部 ブランド統括マネージャーの本村裕史氏、R&Dセンター 半導体開発ラボ グループ長の山内日美生氏、みるコレを担当する賀澤広志氏の3名だ。 ■ テレビの大型化を全力推進。「骨太ならば売れる」 現在テレビは、日本で何台くらい売れているのだろうか? 以下のグラフは、JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)が公表している「民生用電子機器国内出荷統計」から、テレビだけを抽出して筆者が作成したものだ。以前から記事で使っているが、最新の情報を加えてアップデートしてある。 地デジ移行による需要の先食いは圧倒的だ。最盛期(2010年12月)には月に387万台もの出荷となっている。2023年の「年間」出荷台数が437万台であることを思うと、その大きさがお分かりいただけるだろう。 本村氏はテレビの現状を以下のように説明する。 本村氏(以下敬称略):このところ、日本のテレビの販売台数は毎年500万台を切るくらいです。この数字は、もうずっと続くのだろうと思っています。 これはどういうことかというと、「10年に一度、テレビの買い替えがある」ということ。日本にざっくり5,000万世帯があるとすると、その10分の1が買う。これは「一家に一台、リビングのテレビ」という需要である、ということです。 それが明確になってきて、「リビングのテレビなんだから、大きいテレビ、いいテレビで見ようという意識は高まっている」と考えています。 我々が骨太の製品を出せば、そうした気持ちをキャッチできると考えています。 彼らのいう「骨太」というのは、要は画質や使い勝手の面で優れたもの、という話だ。 そして、特に今年はサイズの大きな製品への注力が目立つ。主力製品は55型から75型。さらには110型まで製品投入した。これはどのような戦略に基づくものなのだろうか。 本村:弊社としては「大画面化」をかなり意識的に問いかけてきたつもりです。流通との商談などでも「絶対大きい方がいい」とお話ししています。 ここには2つの側面があります。 率直な話として、メーカーも販売店も、製品の単価を上げる方法を模索しています。そこで「サイズアップ」は有用である……という点は否定できません。 でもですね。 やっぱり心の中の本音として、映像は大きな画面で見た方が感動します。これは商売抜きでそう思います。 いまや50インチでも全然小さいと感じます。一定のサイズが普及したことで、多くの方の考え方も変わってきています。以前は55型以上を「大画面」と定義してきましたが、もう65型以上が大画面。その中でなにをするか、ということです。 当然そこではモデルによるクオリティの差もありますが、価値を判断して対価をお支払いいただければと思います。 「骨太」という言葉の中には、以前から続けている「録画」「番組提案」といった機能にも関係している。 録画系や視聴選択系に独自の機能を入れるテレビメーカーは減ってきた。Androidをベースとしたテレビが増えた結果、それらの機能はテレビに搭載するOS(Android TVやFire TV)がカバーするようになってきたのは大きいだろう。OS側に価値を依存しないよう、番組の並べ方などに独自性を見いだすところもあるが、過去のモデルに訴求して同じ機能が提供できているわけではない。 しかしREGZAの場合、全録の「タイムシフトマシン」やある種のレコメンド機能である「みるコレ」は、アップデートにも積極的。特に「みるコレ」は、3年前の機種に対する機能追加も継続しているほどだ。 これは、処理やコンテンツの提示を独自のクラウドで行なっており、TVS REGZAの担当者がある意味手作業でメンテナンスできる体制であるからでもある。 アプリ的な価値観からは一歩離れているが、それを貫き続けるのも「骨太な態勢」と言える。 ■ ディスプレイの変化から「両方推し」を選んだ理由 そこで今のテーマとして出てくるのが、「ミニLED採用の液晶と有機ELをどう扱っていくのか」という点だ。 今年はパナソニックがハイエンドで明確に有機ELシフトを敷き、ソニーはミニLEDにフォーカスしている。 LGは両方やっているがハイエンドはやはり有機EL。シャープも両方を並列に扱ってはいるが、有機ELでQD OLED採用のものを別格として扱っている。 一方でREGZAは、有機ELとミニLEDをほぼ並列に扱っており、それぞれ戦略が分かれている。 もちろんここでは、ディスプレイパネル調達の事情も関わってくる。テレビの価格も生産量も、ディスプレイパネルで決まる。画質はディスプレイパネルだけで決まるのではなくなっているが、ディスプレイパネルの関与度も高い。使いたくても使いたいパネルがない、という場合、採れる手は限られてくる。 しかし今年の場合、「パネルが調達できないから供給する製品の特質を変える」というメーカーは少ないようだ。会社の戦略・事情によって選択が変わっている、という形であったと考える。 では、REGZAはなぜ「二正面作戦」を選んだのだろうか? 本村:正直なところ、初期のミニLEDと現在のものとでは、大きくイメージが変わってきています。ミニLEDが伸びて比率も上がってきました。 初期には、サイズと価格面で有機ELに対して不利な部分があるので、「液晶を有機ELに近づける」のがミニLEDだと思っていたんです。悪い言い方をすれば、ミニLEDはコストセーブの技術だ、と。 しかし、他社のミニLEDを見て考え方が変わってきました。ソニーさんが有機ELに負けないミニLEDモデルを作ってきたのが大きいです。弊社としても「Z970M」ができて、世の中に画質を問えるミニLED液晶ができた、と考えています。 家電量販店さん側も「ミニLEDすごいよね」と姿勢が変わってきたんです。ですから、自信を持ってミニLEDを紹介できます。 現在ですと、液晶を10年使ったからテレビを買い換えに来ているお客様も多い。そこでは情報を調べてから家電量販店に来るのではない、という方々の比率も高いんです。「有機EL? OLED? 聞いたことあるけど……」というような方には、「いままで使っていた液晶である」ということが安心感につながります。 一方で、やっぱり有機ELの方が……という部分もまだまだあります。Metaレンズによる輝度アップも行なえましたし、画質はさらに向上しています。 すなわち、ミニLED自体の品質アップとライバルの動きを見て、両方をカバーできる立場なので両方を選択する……ということなのだろう。その中で、特に今年強化したかった「大型化路線」にミニLEDが好適であること、ライバル企業との差別化という面があることも考えると、このやり方は、少なくとも今年は正しかったのではないだろうか。 その上で高画質化を目指すとなると、AIの力を借りるのが必然となってくる。 「AI」「機械学習」というキーワード自身は以前からテレビでも使われている。REGZAはその手の処理では古株であり、昨年もAIを使った高画質をアピールしている。 では現在はどんな部分が変わってきたのか? 山内氏は次のように説明する。 山内:ミニLEDと有機EL、双方に共通するのが、大画面トレンドと高輝度・広色域です。やはり輝度が高くなり、その分色域が出やすくなったのは大きいですね。 一方で、広がった領域を使わないシーンも大きいです。現在のデバイスに合わせて、色々なコンテンツの表示を最適化する必要があります。 有機ELと液晶では制御も違っています。液晶ではバックライト制御の自由度が高く、そこが武器になります。 では自発光の有機ELではどうするか? 実はここでも自由度が上がり、制御がしやすくなりました。これまでは焼き付きをどう防止するか、という話が多かったのですが、そういうシーンを飛び越え、これだったら十分大丈夫」という範囲、すなわち信頼性が確保できる中で「思いっきりやろう」という形になっています。 ここでポイントになってくるのが、「思いっきりやる」ためには、表示しているのがどんなコンテンツでどうコントロールすべきか、という判断だ。 山内:オンラインコンテンツが増えていますから、「どんなコンテンツが再生されているのか」は把握しづらい。そうするとAIでシーンを把握し、場合分けして対応していくしかありません。 例えば、格闘技のビッグイベントは、配信でしかやってくれないことも増えました。それらをじーっと見ていると、どうしても「曇ったようなハレーション」が気になったんです。 そこで、スポーツ系のなかでも明確な絵作りができるものとして、リング格闘技を1つのテーマに選んでいます。 従来のスポーツモードは動画特性(残像低減など)を中心に調整していましたが、今回はもっと高画質化のために向けた機能になっています。 この辺はある意味わかりやすい変化だ。 どんなパネル技術であっても、すべての領域で完璧な存在はない。だから不利な部分をカバーしていくのが画質補正の仕事だったといっていい。それがパネル特性の変化に合わせ、テレビメーカー側でコントロール可能な領域が増えてきたことで、画質設計と活用する技術に、さらに大幅な変化が起きている……ということなのだろう。 これは他社からも似たような話を聞いているし、来年以降も続くトレンドと考えられる。 ■ YouTube公式チャンネルには「秘密の役割」がある もう一つ、REGZAが他社と違う点がある。 それはYouTubeチャンネルの運営に「妙に積極的」であることだ。 TVS REGZAは3年前に「レグザ公式YouTubeチャンネル」の運営を本格化。現在チャンネル登録者数は2.78万人だ。大物YouTuber……とは行かないが、相応の数になってきている。 実際影響力はあり、家電メーカーが公式チャンネルでトーク的なコンテンツを増やし始めるきっかけにもなっていると感じる。 この辺の話は、ウェブメディアではあまり触れられてこなかったように思う。競合だからというのもあるが、一見目立たない話でもあるからだ。 なぜこのチャンネルを始めたのか、そして維持し続けるのはなぜなのか? それもこの際なので聞いてみた。 本村:もうカタログの意味も変わったじゃないですか。 昔なら家電量販店さんでたくさんのメーカーのものを集めてから吟味……という感じでしたが、もうそうではない。カタログの中にすべての情報を入れるのではなく、「詳しくはネットに」。だとすれば動画が必要だと思ったんです。 ただ、「ECサイトの時代だから」という話ではまったくありません。その導線も強くないですしね。 実は動画の内容は、本村が量販店さん向けの販売セミナーで話していることそのものです。しゃべり方も資料も、そのまんま。 私は年間にたくさんのセミナーでお話するのですが、そこでリーチできる方々の数は限られています。でも、YouTubeチャンネルがあれば1,000人・2,000人の方々に、簡単にリーチできるんです。これは強力な武器で、チャンネル開設後、セミナーへの集客も拡大しています。 なるほど、消費者やファンのためであると同時に、テレビを販売する量販店の方々向けである、というのは「目からうろこ」だ。 もちろん、動画へリーチしてもらうためにサムネイルや内容にはかなりこだわっており、配信・収録ギリギリまで修正を加えているという。 そして、MCのひとりとして小岩井ことりさんを見つけたのは「大ヒット。彼女がいなければ成立しない」(本村氏)とも言う。 そしてもう1つ重視しているのが「開発者自らが喋る」こと。もちろんしゃべりのプロではないし、「広告的な洗練」とはちょっと違った形になるが、「そうでないと信頼していただけない」と本村氏は話す。 筆者も個人的に「文章から動画へ」という流れは感じているし、気にもしている。一方で、ライター個人の話だけでなく、企業や製品担当者はどう「動画シフトに対処すべきか」という観点も気になって仕方がない。そのことは、消費者と製品の接点の変化でもあるからだ。 メーカーの色や担当者のキャラクターによってもできることは変わるだろうが、「カタログではない接点」の必要性が増しているのは間違いない。
AV Watch,西田 宗千佳