<21世紀枠候補紹介>進学校の県太田 本音でつながるために活用したもの 選抜高校野球
1月28日に出場32校が決定する第94回選抜高校野球大会。「21世紀枠」の全国9地区の候補校を担当記者が紹介します。3回目は県太田(群馬)。進学校で練習時間が限られる中、あるアイテムを使って強化につなげる取り組みを追いました。 【プロの世界へ】21センバツを彩った選手たち ◇部員の考えをつなぐ1冊のノート 部員22人の考えをつなぐ1冊のノートがある。その名も「つながりノート」。5、6人がグループになり、思っていることや気づいたことを書き込み、他の選手と共有する。 「練習から自分のことで精いっぱいになっている印象。アンテナを立てて、周りを評価できる人が多くならないと試合の苦しい局面で何も言えなくなる」「何回もやっているトレーニングの動きが間違っていても気づけないのは周りの責任」。先輩、後輩関係なく本音をぶつけ合うことで課題を浮き彫りにし、全員が周りに気を配る意識を持とうとしている。 県内有数の進学校。文武両道を掲げるが、授業は夕方までの日もあり、平日の練習時間は2時間程度に限られる。そのため量より質で勝負しようと、選手主体で練習メニューを考える。投手▽捕手▽内野▽外野▽走塁▽打撃▽トレーニング▽体重――とテーマを設定し、週ごとにオフ以外の6日間のメニューを練る。各担当リーダーからの意見を参考に、つながりノートで出た課題も踏まえてメニューを考え、練習後に話し合う「振り返り」も欠かさない。 ◇新型コロナ下でもノートで心を一つに ノートは他に「個人用」「バッテリー用」の計3冊がある。ノートを書く習慣は、岡田友希監督(45)が別の高校を指導していた時に「感じたことを言葉に書くことで会話も生まれる」ことを体験し、県太田でも同じように共有するために導入した。つながりノートは2019年ごろから新たに取り組み始めたという。 全員が集まれない新型コロナウイルス下でもノートは有効だった。昨秋の県大会は緊急事態宣言下で行われ、学校は分散登校となった。部員の半数程度しか登校できず、部活動の時間も30分程度に限られた。しかし、チームとして徹底すべきことを次の日に登校する選手にノートで引き継ぎ、コロナ禍の影響を最小限にとどめたという。投手の木部広太(1年)は「顔が見られなくてもチーム内でやるべきことはぶれなかった」と振り返る。 大会中に学校で集まることができず、試合後のミーティングもオンラインだった。岡田監督が「次の対戦校の分析もままならず、実戦感覚もない中で試合になるのが怖かった」と明かすほどだったが、県大会は8強入り。秋季関東大会を20年まで2連覇した健大高崎との準々決勝も中盤まで互角に競り合った。 捕手で主将の小林風斗(2年)は「選手全員が主体性を持つことで、試合中に予想外のことが起きても修正できる」と実感する。思いを一方的に文字で伝えるだけでなく、意見交換で掘り下げて練習に落とし込む。SNS(ネット交流サービス)が盛んな時代で、ノートという名の「コミュニケーションツール」が絆を深めている。【浅妻博之】 ▽県太田 1897年創立の男子進学校。2020年度卒業生のうち135人が東大などの国公立大学に現役合格し、野球部からも多くの現役合格者を出した。卒業生に元検事総長で、日本野球機構の初代コミッショナーを務めた福井盛太氏がいる。 <次回は16日朝、相可(三重)を公開する予定です>