里中満智子が『アリエスの乙女たち』で描きたかった恋愛とは。「親世代から『ふしだらな行為を勧めるな』と猛烈な抗議を受けて」
令和5年度の文化功労者に漫画家の里中満智子さんが選ばれました。高校在学時の1964年に『ピアの肖像』で第1回講談社新人漫画賞を受賞した後もなお、数々のヒット作を生み出してきた里中さんが歩んだ道のりとは。多くの作品を世に送り出してきた里中さんは「シンプルな恋物語」があまり好きではないとのことで――。 【原画】ヒロイン2人が様々な経験をしながらも成長する姿を描いた『アリエスの乙女たち』 * * * * * * * ◆愛とは何かを考える『アリエスの乙女たち』 20代半ば、そろそろ「本気の恋愛もの」を描こうと思いました。 もとより私は、ヒロインの恋が成就してハッピーエンドというような、シンプルな恋物語があまり好きではありません。 編集者に「理屈っぽい」と言われがちな私らしい、愛について真剣に理屈をこねるマンガにしようと考えました。1973年に講談社の「週刊少女フレンド」で連載がはじまった『アリエスの乙女たち』です。 この頃は反体制運動やウーマン・リブが盛り上がった時代で、女性も、恋愛を自由に謳歌しようという風潮が社会に広まっていました。けれどその末に、心身ともに傷ついてしまう女性もいるように感じていたのです。 だから、私のマンガの読者である思春期の少女に、きちんと考えた上で恋をしてもらいたかった。大人になる前に、愛とは何かを真剣に考えてほしかったのです。
◆男子学生からも反響 ヒロインは、笑美子と路実の2人。共におひつじ座の生まれですが対照的な性格で、共に引かれ合いながら、それぞれ、辛い恋に苦しみます。 愛は思いやりなのか、それとも、ぶつかり合いなのか。そんな議論をはじめ、同性愛や、既婚者との恋、複数の人を同時に愛することなど、さまざまな愛のあり方について、10代が悩み、傷つき、語り合うマンガです。 男子学生からも反響があって嬉しかったですね。姉や妹、ガールフレンドが読んでいるのを見て知ったようです。 中でも、男子からどっと手紙がきたのは「男のことばなんか信用しちゃいけない」「男にとって行動が第二 ことばは第三の価値しかない」と、ある少年がヒロインに告げる場面について。 「第一の価値は何ですか?」という質問が、あちこちからきました。 はて、困った。実はこのセリフを書いた物語の序盤で「男にとっての第一の価値」について、私が考えていたわけではありません。 ただ「言葉より、行動より、決め手となるものはある。それが何か描きながら考えよう」と思っていました。 思案の末、後に、その答えのようなものを提示しました。