高橋文哉の“一人二役”への布石は敷かれていた? “王道”を歩み続ける役者としての進化
7月19日から放送開始となるテレビ朝日系列の金曜ナイトドラマ『伝説の頭 翔』で主演を務める高橋文哉。以前彼について書いたのは2年ほど前の『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』(日本テレビ系)の時で(高橋文哉、研ぎ澄まされていく魅せる能力 “二つの登竜門”をくぐり抜けた筆頭俳優に)、ちょうど同作まで7クール連続で(『仮面ライダーゼロワン』も含めればそれ以上の長期にわたって)民放ドラマに出演していた“急ブレイク期”だったと記憶している。 【写真】全力ダンスを披露する関水渚と森香澄 その後も『君の花になる』(TBS系)や『女神の教室~リーガル青春白書~』(フジテレビ系)といったメインキャストを務めたドラマがあり、主演映画『交換ウソ日記』があり、主演ドラマ『フェルマーの料理』(TBS系)があり。今年に入ってからはバラエティ番組にもレギュラー出演をするなど、ここまでコンスタントに“出続けている”役者もなかなかいないのではないだろうか。そういった意味では、“これがブレイクのきっかけになった作品だ”と言い切れない役者でもある。案外そのようなタイプの役者の方が息の長い活躍を見せてくれるものではあるが。 さて『フェルマーの料理』以来3クールぶりの連続ドラマ主演作となる『伝説の頭 翔』で高橋が演じるのは、1000人以上のヤンキーたちを従えるカリスマヤンキーの伊集院翔。そして、そんな翔とひょんなことから出会い、たまたま容姿がそっくりだったことから人生を交換することになるスクールカースト最下層のオタク男子・山田達人。要するに“一人二役”で、まるっきり対照的な二つのキャラクターを演じ分けるということであり、演技者としての技量を発揮するには格好の舞台といえよう。 原作通りに物語が進むのであれば、入院する翔に代わって達人が翔のふりをし、1000人規模のヤンキーたちを束ねることになる。当然それまでそんなことなど経験したことのない達人はどうしていいか分からず、翔に助け舟を求めながら彼の言葉に動かされて少しずつ自分の意思で行動するようになっていく。もっとも、極端に正反対のキャラクターを二つ演じることよりも、片方が徐々にもう一方へと近付いていく――もう一方と同じ振る舞いをしながら両者に差異を作りだすことのほうが難易度が高い。 その演じ分けに器用さが求められることになるわけだが、翔と人生を交換する前の達人のメガネをかけて野暮ったい髪型のビジュアルからは、『夢中さ、きみに。』(MBS)の二階堂役を思い出してしまう。よくよく考えてみれば、“逆高校デビュー”を果たして本来の自分を封印した二階堂役も、ある意味では一人二役に近しいものがあったかもしれない。もっといえば、飛電或人が変身して仮面ライダーゼロワンになることも、ある意味では一人二役のようなもの。すでに今回の挑戦への布石は敷かれていたようだ。 “ヤンキードラマ”というジャンルにおいては、最近ではすっかり見かけなくなった“ザ・ヤンキー”といわんばかりのインパクトあるビジュアルを持ち、それを保ちながらケンカという大立ち回りを繰り広げることが必要不可欠になる。そこに関しては“ライダー俳優”としての本領発揮といったところか。どぎまぎした達人と対になる、翔の鋭い眼光、ヤンキーとしての啖呵の切り方は、これまでの高橋の演技にはなかった一面を期待できるポイントでもあろうか。 先述したようにこれまではテレビドラマでの活躍が中心だった高橋だが、今年に入ってからは映画への出演が連続している。『からかい上手の高木さん』で原作にはない10年後の西片の姿をうまく演じていたり、夏に公開される『ブルーピリオド』ではユカちゃん役を演じたり。そうした漫画原作に加え、オリジナル作品の『あの人が消えた』や、来年には直木賞受賞作の『少年と犬』で主演を張る。 ライダーから出てきてテレビドラマで経験を重ね、映画界で一気に羽ばたく。最近は少なくなったこの王道の流れを綺麗に歩んでいるという点だけでも、その進化の過程を見守っていたくなる。
久保田和馬