ダイソンが掃除機で培った技術を応用し、高級ヘッドホン市場に挑戦。既存音響ブランドとの競争激化の中、参入する意図は?
■クラフトマンシップを感じるヘッドフォン 妥協を許さない質感や仕上げの細かな部分へのこだわりに関しては、クラフトマンシップを感じると思うほどだ。パッケージ全体の仕上げも含め、この製品がデザインや仕上げの面で優れている事は決して否定しない。装着感もとても良い。 この製品は、イヤーカップのカバーや、イヤーパッドのカラーバリエーションを多数用意することで、本体そのものの仕上げの違いを含め、個性豊かな多様なルックスを自分自身で選び、作り上げることを特徴としている。
しかし、それは個性を表現するうえでは重要ではあるが、高級オーディオ機器として第一に求められることかといえば疑問が残る。 そう、ここでやはりなぜダイソンがヘッドフォンを作るのかというストーリーに中断が起きてしまうのだ。 誰もが知っているように、高級なヘッドフォンに求めるのは素晴らしい音質体験だ。もし機能的に性能の良いノイズキャンセリングヘッドフォンが欲しいだけであれば、もっと安価な選択肢がある。また機能を求めるのであれば、その機能が満たされる範囲内でより少ない投資のほうが望ましい。
つまり、高級ヘッドフォンに求められるのは機能ではなく満足感。そして満足感を埋めるのは主に音質ということだ。その中には当然装着感やバッテリーの持続時間なども含まれるため、そうした面での妥協はない点に関しては体験が素晴らしいとはいえるだろう。しかし、あくまでもそれは主役ではない。 思いの丈を話し続けていても前に進まないのであるが、OnTracの性能は優れたものであるが、非凡なものではない。また採用されているドライバーユニットや、ノイズキャンセリングの技術、そして装着感を高めているイヤーパッドやヘッドバンドのデザインなども含め、ほとんどはDyson Zoneと共通している。
つまり、(ダイソン自身は否定するかもしれないが)OnTracとはDyson Zoneから空気清浄機を取り除き、カラーバリエーションの自由度を広げる工夫をした製品である。 音質の面でも、両者の共通性は極めて高い。若干、周波数特性の調整を行っているようで、エネルギーバランスが異なると感じる部分もあるが、基本的なキャラクターはほとんど変わっていない。 誤解のないように加えておくと、決して音質が悪いと言っているのではない。 深みのあるサブベースから繊細な高音まで、あらゆる音を素直に再現するチューニングは、特にフラットな周波数特性に設定したときには、極めてモニター的で音楽ソースに込められている、細かなニュアンスの違いが克明に感じられる。