テスラを追い詰めるBYD! 名実ともに「世界一」となれるのか? 垂直統合で世界EV市場に挑戦、「ありかも」CMは今後「超あり」or「なし」どちらか
自社一貫生産の強み
世界中で事業を拡大し続けるBYDだが、その背景にある戦略は、電池から車両まで自社で生産する垂直統合型のビジネスモデルだ。 垂直統合型とは、川上(原材料の調達)から川下(販売)まで、製品づくりに必要なすべての工程を1社で担うビジネスモデルのことだ。自動車産業でいえば、鉄鋼や樹脂などの原材料の調達から、エンジンやボディ、内装などの部品製造、完成車の組み立て、ディーラーでの販売まで、すべてを企業グループ内で行うことを意味する。つまり、本質は、自社製品に関わるサプライチェーン全体を一社で所有し、外部に依存しないことにある。 垂直統合型の第一のメリットは、市場変動の影響を受けにくいサプライチェーンの構築が可能になることである。例えば、世界的な半導体不足で多くの自動車メーカーが減産を余儀なくされた際、チップの内製化を進めていたBYDは、他社と同程度のダメージを回避することができた。また、外注コストを削減することで、価格競争力のある製品を投入しやすくなる。部品の共通化・モジュール化を進めることで、開発期間を大幅に短縮することも可能だ。 垂直統合型のビジネスモデルを生み出したのは、自動車産業の覇者として名高いフォードである。創業者のヘンリー・フォードは、1910年代に画期的な一貫生産体制を確立した。鉄鉱山や森林などの原料調達拠点に始まり、輸送船、製鉄所、ガラス工場、組立工場、販売店など、自動車製造に関わるすべてをフォードの傘下に収めた。これにより、T型フォードは当時としては破格の低価格で販売され、全米で人気を博した。
高品質生産の秘密
大手自動車メーカーのトヨタは、高度な垂直統合型でも知られている。トヨタの連結子会社は500社を超え、自動車の研究開発から販売店までを垂直統合することで国際競争力を維持してきた。 本社が車両開発を担当し、系列の部品メーカーが個々のユニットの製造を分担し、専売ディーラー網が販売とサービスを担当する。この緊密な連携により、ジャスト・イン・タイムやカイゼンといったトヨタ生産方式(TPS)で無駄を省きながら、高品質なクルマを生産することが可能になった。 BYDのビジネスモデルは、フォードとトヨタの経験から学び、21世紀のEV時代に合うようにアップデートされたものといえる。電池から完成車までの一貫したEV生産システムこそが、同社の成長をけん引している。 BYDは独自の電池技術により、他社よりも安価で高性能な電池を供給できる立場にある。また、電池だけでなく、電気モーターやパワーコントロールユニット、車載インフォテインメントシステムなどの主要部品も自社生産しており、EVシステム全体の最適設計と低コスト化を実現している。部品メーカーへの発注を最小限に抑え、高い収益性を実現している。