シングルマザー支援に「シェアハウス」(下) 悪質業者を防ぐ体制づくりを
専門機関との連携と幅広い体制づくりがカギ
もう一つの課題は体制づくりです。 「上」で紹介した名古屋市のシェアハウス事業者「リンクリンク」は住宅提供以外に育児や就労の支援にも力を入れていました。代表の大津たまみさんはシングルマザーとなった自らの経験から思い入れを持って事業を行い、地域や企業の協力を取り付けています。しかし、すべての事業者にそうした幅広い支援を求めるのは難しいのが現実です。 住居の確保が困難な人は、就労や心身の健康に問題を抱えていることが多くあります。DV被害に苦しむ人や、精神障害や発達障害には専門家の支援が欠かせません。本来、専門的なケアを行うべき機関は病院や障害者施設、ハローワーク、役所や民間のNPOなどがあります。そうした機関をきちんと機能させ、シェアハウス事業者と積極的に連携してもらうことが求められます。 また、要配慮者の住宅施策では、主に低所得者向けの無料低額宿泊所(無低)をめぐり、「貧困ビジネス」化してしまう問題が指摘されてきました。 無低は社会福祉法で一定の基準が設けられていますが、中には狭い部屋に数名が暮らしたり、板で仕切ったりしただけの「個室」も。家賃とは別に、食費や施設運営費などの名目で経費を徴収し、本人の手元にはわずかな金額しか残さないという悪質な事例も後を絶ちません。 無低の問題に詳しい日本福祉大学の山田壮志郎准教授は、「無低の問題は、特に必要がない支援まで押しつけられてお金を取られたり、住みたいアパートに住めないため、やむなく無低に長期滞在するしかない状態に陥っている人が多いこと。母子世帯向けシェアハウスも、入居者がどんな住まいを望むかという意思の尊重が、取り組みを広げていくにあたって大切だ」と話します。 悪質な業者にとっては「ここしかない」状況をつくることがビジネスとしての「うまみ」にもなります。それを打破するためにも、シェアハウスがよい人はシェアハウスで暮らせるように、共同生活になじまない人は一般のアパートに住みつつ、必要であれば個別の支援を受けられるなど、幅広く柔軟な体制づくりが求められます。それによって「当事者のニーズに応えて運営していこうという社会的ミッションに基づく業者だけが残るだろう」と山田准教授は提言します。 シェアハウスで入居者同士が支え合って暮らすように、地域と支援団体や企業、行政が少しずつ協力しあっていくことが、シングルマザーはもちろん、誰もが取り残されない住宅や地域づくりの要となりそうです。 (石黒好美/Newdra)