NTT西日本・井沢 東大卒右腕が迎える勝負の3年目 新球習得へ「必死でものにしないといけない」
目覚ましい進歩を遂げながらも、言葉の端々からは危機感がにじみ出た。今季が入社3年目となるNTT西日本・井沢駿介投手(24)。右腕から繰り出すカットボールを軸に昨季は都市対抗で初登板を果たしたが、自らに向ける視線はまだまだ厳しい。 「真っすぐの球速を上げることが一つ。あとは今はカットを軸に投げているんですが、変化球のバリエーションを増やして投球術を身につけたい。カットとは逆方向となるツーシーム、チェンジアップをもう一つの軸にできるよう考えています。これをつかめないと厳しいというのはある。必死でものにしないといけません」 その経歴は異色と言って良い。道内屈指の進学校である札幌南から1浪を経て東大理科二類に合格。浪人中は1日12時間に及ぶ猛勉強で超難関を突破した。志望理由は「東大を狙える学力は全くなかったですが、六大学で試合に出るなら東大しかないかな、と」。東大入学後も1年時はブランクの影響で体も思うように動かず慢性的な右肩痛に悩まされたが、2年時から頭角を現し、3年秋と4年秋にそれぞれ1勝ずつをマークした。 「こういう恵まれた環境ですが、本当に実力不足で1年間は全く試合に出られずという感じでした」 入社1年目は最速が140キロに届かないなど、力不足を痛感せざるを得なかった。投手陣の一角に食い込むため、追い求めたのは「ホップするような軌道」。リリース時に指のかかりを少しでも良くしようと、人差し指と中指の間隔もミリ単位で調整していった。浮上への兆しが見え始めたのは、間隔を「指1本分」にした昨年1月頃。「どんどん良くなっている感覚が出てきました」と振り返ったように、2年目の昨季は春先から登板機会を増やしていった。4月のJABA京都大会・ヤマハ戦では2回2/3で4三振を奪い無失点。都市対抗初戦の三菱自動車岡崎戦では6回から2番手で登板し、1回無安打無失点に封じた。2年目は東大時代を1キロ更新する最速145キロをマーク。河本泰浩監督は「去年1年間でかなり伸びた。自信がついた部分もあると思うし、ピッチャーとして自分がどうあるべきかを勉強している。ここからが勝負です」とさらなる飛躍に期待する。 自他共に勝負の年と位置づける今季。野球エリートに囲まれ「技術は今もない。周りと比べれば、その差は大きいです」と冷静に分析する一方、経験値の少なさが必ずしも短所になるとは限らない。井沢は言う。 「(大学までの)野球の練習時間が短かった分、伸びしろもあると思いますし、上達する楽しさを持てているのが練習する上では大事だと思っています。PDCA(Plan=計画、Do=実行、Check=評価、Action=改善)は勉強と似ていて、失敗も学びだと思ってできています」 究極の文武両道を成し遂げた井沢には失敗を成功に変える力が人一倍ある。現にベンチ入りすらままならなかった1年目から、2年目はチーム内競争を勝ち抜き、東京ドームのマウンドを踏みしめるまでに立ち位置を変えた。3年目の今季も厳しい競争が待ち受けることを理解した上で、高い志を持つ。 「来年(4年目)野球をできているかどうか分からないですし、今の積み重ねが大切になってくると思います。ただ、野球をやっている以上はチームの中心選手を目指すのは当然ですし、都市対抗、日本選手権でも主戦として投げるというところは一つの目標です。自分が活躍できたら、技術の差を埋められる一つの証明にはなる。技術も大事だけど、技術以外の考え方であったり、取り組みでカバーできるということは言えるようになるかもしれないので」 社会人野球のパイオニアとなるべく、井沢は目の前の日々を全力で駆け抜ける。