「被り物」や「挨拶」のルールから物語の展開が予測できる!? 『ゴールデンカムイ』監修者が明かすアイヌ文化の基礎知識
アシㇼパがあえて「被り物を取らなかった」理由
この時、尾形に手を引かれて一番後ろから入ってきたアシㇼパは、絵のようにちょっと頭のマタンプㇱ(被り物)を外しかけて、そのまま元に戻してしまいます。 後でアシㇼパがトイレに行くと言って席を立った時に、杉元が「すみませんね。普段は礼儀正しいんだけど……」「他の家では(中略)頭の鉢巻(はちまき)とかも取ってちゃんとしてたのに…」と言い訳をして不審がっていましたが、杉元の言うように、女性はこういう場では被り物を取るのが礼儀でした。 アシㇼパもこのような慣習は身につけていたはずですが、大の大人で元兵士である杉元の前で、マタンプㇱを外したことはついぞありませんでしたね(というか、誰の前でもあまり取ったのを見たことがありません)。 この9巻87話の場面では、村の男たちのふるまいや、何より外にあった熊檻の熊の扱いのひどさに、アシㇼパが男たちの正体を疑っていたことが表されています。 そういえば、家の中ではモノアという女性は被り物をしていませんが、9巻88話で、窓の外からウンカ オピウキ ヤン!「私たちを助けて!」と叫び声を上げた女性は、チエパヌㇷ゚(被り物)をつけていましたね。このようにアイヌの女性は成人男性の前では、被り物をとるのが慣習でした。 実はこの男たちは樺戸監獄から脱走した囚人で、この村の男たちを殺してアイヌに成りすましていたことが後で明らかになりますが、それにしても客を迎えるここまでの作法はほぼ完璧なもので、囚人たちもアイヌに成りすますために、いろいろ学んでいたことがわかります。 ただ、やっぱりアシㇼパのような本物のアイヌの眼をごまかすのは無理でしたし、尾形も彼らが怪しいことを早々と見抜いていたようでした。 それにひき比べて、杉元は尾形の疑いを晴らすために、たまたま見つけたキサラリ「耳長お化け」の使い方をレタンノエカシという長老に問うというアイディアまでは素晴らしかったのですが、尾形がキサラリでレタンノエカシの足を叩いて、日本語で叫び声を上げさせるというアシストまでしているのに、一向に偽者だと気がつきませんでした。 この、戦闘では超人的な勘のよさを見せるのに、それ以外のことになるとえらく鈍いという点も、杉元の魅力のひとつでしょう。