天皇陛下、日英の友好関係「さらに高みに登る機会を得ている我々は幸運」…あいさつの日本語訳全文
例えば、日英の科学者の最先端の医学研究による世界への貢献です。ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授の研究で知られるiPS細胞は、同賞を共同受賞した英国のガードン博士の先行研究の成果を踏まえたものであり、再生医療に革新をもたらしました。明日訪れる予定のフランシス・クリック研究所でも、がん研究やインフルエンザへの対応において日英の若手研究者を含む多くの関係者が協力し、新たな挑戦に取り組んでいます。
また、昨日は私的にテムズバリアを視察いたしました。テムズバリアは、1953年に起きた英国史上最悪の北海高潮被害(the 1953 North Sea Flood)を踏まえて建設されました。英国における高潮予測の発展には、日本人研究者の石黒鎮雄(しずお)博士、日系英国人でノーベル文学賞受賞者の作家カズオ・イシグロ氏のお父上が重要な役割を果たされました。石黒博士は、英国の研究所に迎えられ、北海の高潮の正確で迅速な定量的予測を実用化しました。石黒博士がその研究から発展させたアナログ計算機は、カズオ氏によるとBBCドラマ「ドクター・フー」(Doctor Who)のタイムマシーン「ターディス」(TARDIS:Time And Relative Dimension in Space)の内側のようだったとも聞いています。石黒博士による電子工学と海洋科学の学際的イノベーションは独創的であり、今を生きる日英両国の研究者にも、時空を超えて大きなインスピレーションを与えているものと思います。
今回、国王陛下がパトロンを務めておられる王立キュー植物園を23年ぶりに再訪し、「ミレニアム・シード・バンク」による絶滅回避のための種子保存の取り組みなどについて視察することを楽しみにしています。国王陛下が気候変動や生物多様性等の問題に情熱と危機感を持って取り組まれてきたことに敬意を表するとともに、日英の多くの人々がこうした環境問題に関心を持ち、諸課題の解決に力を尽くしてきていることに勇気付けられます。「ミレニアム・シード・バンク」には、東日本大震災の津波被害により高田松原で数万本の松が倒れる中で唯一残った「奇跡の一本松」と同じアイアカマツなどの種子が岩手県から寄贈されたと伺っており、強靱(きょうじん)性や震災からの復興、そして日英友好の象徴として永く保存されることでしょう。