高校球児が燃え尽きる“甲子園至上主義”の理不尽…チームより個人を優先する「リーガ・サマーキャンプ」は野球の未来を変えるか
チームを離れ、1人の選手としてプレーする
香織さんは息子に野球を存分にプレーさせられる場所を探し、ついに出会ったのが個人エントリー型のリーガ・サマーキャンプだった。工藤は久々に野球を思い切りプレーできる機会を待ち望んでいる。 「自分はうまい人とやれると燃えてくるタイプです。甲子園夢プロジェクトではうまく捕れない人もいるから、相手のことを考えて投げないといけない。サマーキャンプは遠慮しないで送球できるので楽しみです。僕が今、野球部に入っていないからといって手加減はしてほしくない」 リーガ・サマーキャンプという機会がつくられたからこそ、工藤は久しぶりに本気で野球をプレーできる。しかも相手にはドラフト候補や、海外の名門でプレーする選手もいる。チーム単位の高校野球と異なり、個人に焦点を当てるからこそ多様性が実現可能になるのだ。 大会を主催する阪長代表理事が言う。 「サマーキャンプでは既存のチームから離れ、1人の選手としてそこで出会う仲間とプレーします。環境が変わることで、まだ自分自身も気づいていない能力を引き出せるチャンスがあると思います。それぞれの選手が自身の中に内在する『できる自分』を見つけ出す。サマーキャンプがきっかけで、本来は出会わなかったはずの選手同士が出会う。そこで新たな化学反応が起こり、それぞれの人生が変わっていく。バタフライ・エフェクトと言われるように、一人ひとりの勇気や行動、チャレンジが未来を変えていくことを期待しています」 甲子園を頂点とする高校野球では限られたエリート層が優遇され、“負けたら終わり”という仕組みのなかで燃え尽きる者を少なからず生み出してきた。そうした甲子園システムが日本の伝統的な文化をつくってきたのも事実だが、令和の今、個人がもっと輝ける舞台も同時に不可欠だろう。 理不尽より権利。組織のために犠牲になるのではなく、個人が自由にやりたいことを追求する。参加するのに一定の金額はかかるが、リーガ・サマーキャンプだからこそ手に入れられる価値が多くあるはずだ。
中島大輔 1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年からセルティックの中村俊輔を4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。最新作に『山本由伸 常識を変える投球術』(新潮新書)。 デイリー新潮編集部
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