浅野ゆう子 芸能活動50周年 「演じることの正解はまだ見えていません」
「俳優一本で失敗することは考えなかった」
「もう50年か、ではなくあっという間。濃厚な時間を過ごしてきた、という自覚はありますね。今もわからないことばかりで日々勉強中の身ですが」 【画像】水着姿も披露…!気品漂う 浅野ゆう子「素顔写真」 今年で芸歴50周年を迎えた浅野ゆう子(64)は、自身の芸能生活をこう表現した。 ’74年、13歳で上京し、アイドル歌手としてデビュー。その年の日本レコード大賞新人賞を受賞すると、’76年の『セクシー・バス・ストップ』など、ヒット曲を飛ばす。以降、歌手に女優、モデル、グラビアなどマルチな活躍を見せてきた。 すっかり実力派女優となった今の姿からは想像しづらいが、その″器用さ″ゆえに、浅野は同時に葛藤も感じてきた。 「デビュー直後から、コンスタントにドラマ、お芝居、歌のお仕事を頂けていました。でも、ずーっと、『自分の肩書は何なのか』ということが気になっていた。芸能人としての”核”がなかったんです」 もともと歌が得意だという感覚はあまり持っていなかったという。’70年代当時のレコーディングは3ヵ月に一度シングルを発表するなど、俳優業と並行するには過酷なスケジュールだった。 「レコーディングのスパンも短く、歌を続けていく自信がなくなりつつあったんです。私には無理かもしれない、と。歌も俳優も演じるということは同じですが、私はお芝居のほうが好きだと気付いた。”俳優・浅野ゆう子”の名刺が作りたい、と事務所に伝えたのが25歳の時でした」 「俳優一本で失敗することは考えなかった」と、浅野は笑みをこぼす。そんな前向きな感性は各時代にマッチする。 ◆″W浅野″誕生 ’88年に出演した『抱きしめたい!』(フジテレビ系)は最高視聴率20%を超え、トレンディドラマの走りとして大ブレイク。浅野温子(あつこ)(63)と共に主演を務めた同作は、″W浅野″として社会現象を巻き起こした。 「フジテレビさんが、浅野同士を狙ってキャスティングしたようです。温(あっ)ちゃんとは年も同じだから不思議な縁で。よく親戚にも間違えられましたね(笑)。この巡り合わせが後の仕事にもどんどん繋がっていって、感謝しかない。それは温ちゃんも同じ感覚じゃないかな」 以降、トレンディドラマ俳優としての顔は、浅野の代名詞となっていく。その理由を辿(たど)ると、浅野の「時代を読む力」というものを確かに感じさせられる。 「トレンディというくらいですから、若者の身の丈(たけ)にあった″等身大の日常″がコンセプトな作品が多いわけです。一方で、一人暮らしのOLの家にカラオケセットがあってビールを飲みながら歌う、みたいなシーンもある(笑)。じゃあどこでリアルを出すかというと、気持ちの面なんです。会話の中での心の移り方や流れ方。どんな役柄でも、『皆さんと同じ世代の女子だから』という気持ちで演じることを常に意識し、そのための努力をしていました。自画自賛ですが、うまく時代に合っていたのかな」 デビュー当初は大半が男性ファンだった。だが、キャリアウーマン役を演じる機会が増えたことで、女性ファンとの比率が逆転していった。浅野からすれば、これはポジティブな変化でもあった。 年齢を重ねていくにつれて舞台や映画、ドラマなど多くの作品に関わっていった。役者魂をくすぐられたという『大奥』(’03年・フジテレビ系)ではヒールを打診され、即決。着実に演技の幅を広げてきた浅野だが、「演じることはいまだ正解が見えない世界だ」とも明かす。 「年々演じることは難しいな、と感じる機会は増えています。自分が出ている再放送ドラマをたまに観返すんですが、若い頃は勢いで演技をして、それがハマっていることも多かった。キャリアを積んだ今は、勢いだけではなく、一つひとつの芝居を丁寧に考えるようになった。言い換えれば、これは『考えてできるようになっちゃった』とも言えます。役柄によってはそれが良いほうに出る時と、そうでない時もある。50年この世界にいても、まだわからないことだらけです」 ◆テレビ業界の変化 長いキャリアを誇る浅野に、昨今のテレビ業界の変化を尋ねてみると、一呼吸置いたうえで、こんな答えが返ってきた。 「時間の使い方が変わりましたね。昔は規制もなく、やれるところまでやろうが普通でした。今は限られた時間でいかに求められている水準に持っていくか、ということが役者には求められている。撮影終わりにスタッフさんをご飯に誘うのも、立場が強い役者から誘うとハラスメントにもなり兼ねないですから。表現にしてもそうで、今は自由奔放……という言葉はもう死語になったと感じます。どちらがいい悪い、ではなく、どちらにも対応できる人間でありたい。ここは強く意識しています」 プライベートでは大きな変化もあった。結婚願望はもともとなかったというが、57歳で一般男性と籍を入れたのだ。 「クリスマスケーキに例えて、女は25歳を超えると賞味期限が切れる、という認識の時代を生きてきたので(笑)。デビュー当時から、『芸能人は仕事と結婚の幸せを両方つかむことはできない』と散々言われてきました。そりゃあ自然と結婚願望はなくなっていきますよ。そんな環境にいたので、アイドルの交際宣言なんかを聞くと、いまだにドキッとしちゃう私もいます」 結婚という概念に囚われず、自分らしく人生と向き合ってきた。しかし、50代半ばを迎え、「楽しく生きる」という考え方や方法論が変わった面もある。 「今は結婚して本当に良かったと感じています。パートナーがいるということは、自分ありきの生活から、食事一つとっても相手に歩み寄るということ。それがとても良かった。お互い大人ですから、束縛することなく、自分の時間も大切にしています。夜一緒にいる時は、NHKから始まり、『news23』(TBS系)までひたすら報道番組ばかり観ています。ドラマは全然観ませんね」 二人の時間と同様に、趣味の時間も大事にしているという浅野。 「一人の時間は読書していることが多いかな。司馬遼太郎さんや山本周五郎さんが好きなんですが、最近だと永井紗耶子さんの『木挽町のあだ討ち』も面白かった。芥川賞より直木賞作品を好む面はあります。そんな一人の時間があるから、クールダウンができて仕事も楽しめる。とはいえもともと出不精(でぶしょう)でもあるので、親友の松本伊代ちゃん(59)と、『もっと運動もしないとね』と相談し合っています(笑)」 浅野が選択する言葉はどれも柔らかく、誇張がない。だからこそ嫌味がなく、多くの人に届くのだろう。 「60歳以降は、神様が与えて下さった時間だと思っています。楽しく過ごすことを一番に、その中で仕事も大切に続けていきたいですね」 仕事も恋も手に入れたトップ女優は、等身大のまま60代も謳歌する。 『FRIDAY』2024年11月22・29日合併号より
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