生放送中に惨劇が…最悪の“放送事故”を描くホラー『悪魔と夜ふかし』観客のリアルな感想は?
いま世界中でブームを巻き起こしている“ファウンド・フッテージ”(=撮影者が残したという体裁の映像)のスタイルを取り入れ、映画批評を集積・集計するサイト「ロッテン・トマト」の調査では批評家の97%が称賛したホラー『悪魔と夜ふかし』が、10月4日(金)より公開される。 【写真を見る】閲覧注意…悪魔に取り憑かれた少女によって、スタジオは地獄と化す 先日行われたPRESS HORROR試写会には、ファウンド・フッテージやフェイクドキュメンタリー作品が好きだという映画ファンが多数来場。いち早く本作を鑑賞した観客からは「実際に生放送で見ているような気持ちになれた」(20代・男性)や、「ずっと緊張が解けませんでした。最高の体験でした」(20代・男性)など、そのリアリティと卓越した作り込みに引き込まれたという声が寄せられている。 そこで本稿では、試写会の来場者に実施したアンケートに寄せられた感想コメントを紹介しながら、本作の注目ポイントを紹介。はたして封印された番組のマスターテープにはなにが映っているのか…。その斬新なファウンド・フッテージ表現の魅力に迫っていこう。 ■1970年代テレビショーの空気感をリアルに再現! 1977年のハロウィンの夜。アメリカで深夜に放送されるテレビ番組「ナイト・オウルズ」の司会者ジャック・デルロイ(デヴィッド・ダストマルチャン)は、生放送でオカルト・ライブショーを見せることで人気の低迷を挽回しようとしていた。番組内では霊視やポルターガイストなど怪しげな超常現象が次々と披露されていき、視聴率は過去最高を記録。しかし番組終盤、悪魔に取り憑かれた13歳の少女リリー(イングリッド・トレリ)が登場したことで、“史上最悪の放送事故”へと発展していく。 本作のようなフェイクドキュメンタリー作品で肝心なのは、“本物”だと思わず錯覚してしまうようなリアリティある設定と作り込みの正確さ。「1970年代の映像がより怖さを大きくしていた」(20代・男性)や「混沌としたアメリカが巧みに描き出されていた」(20代・男性)といったコメントからもわかるように、実際のアーカイブ・フッテージが巧みに用いられ、時代背景や登場人物のバックグラウンドを適切に説明。作品世界の真実味を格段に増してくれている。 また、「1970年代のアメリカのテレビ番組を見たことがないのに、作り込みがすごく没入した状態で超常現象を見ることができた」(20代・女性) 「アメリカのトークライブ番組を上手にホラーに落とし込んでいた」(20代・女性) 「テレビショーのリアリティがすばらしかった」(20代・女性) 「生放送という設定が視聴者を巻き込んでいて楽しかった」(30代・女性) 「レトロでどこか懐かしい番組に思わず見入ってしまった」(40代・女性) と、当時のテレビ番組の空気感を忠実に再現したディテールの豊かさで、まるで1970年代アメリカのテレビのスタジオにいるような臨場感を味わえることに満足する声も目立っている。 さらに「アメリカ人が持つ悪魔崇拝への恐怖がうまく描かれていた」(20代・男性)などの声もあり、ディテールにこだわったからこそ生まれた緊迫感も見逃せないポイントだ。 ■強烈司会者にオカルトスター…個性豊かな番組出演者たちに絶賛の声! 主人公のジャック・デルロイ役を存在感たっぷりに演じているのは、『DUNE/デューン 砂の惑星』(21)や『オッペンハイマー』(23)などの大作映画から『ブギーマン』(23)などのホラー映画まで幅広く活躍し、Netflixシリーズ「ONE PIECE」シーズン2への出演も決まっているデヴィッド・ダストマルチャン。 ホラー映画ファンも多く詰めかけた来場者のなかには、ダストマルチャンが主演だから本作に興味を持ったという声も少なくない。しかもそのほとんどが若い男性というのも特徴的だ。いったい彼らを惹きつける魅力はなにか、本作での怪演を見れば一目瞭然だろう。 「デヴィッド・ダストマルチャンの演技が特にすばらしかった」(10代・男性) 「主演俳優の最近の活躍に注目していました」(20代・男性) 「デヴィッド・ダストマルチャンの演技が印象に残った」(20代・男性) 「ダストマルチャンのアクの強い演技が、当時のショービズ界に本当にいそうでリアリティがすごい」(40代・女性) また劇中には、霊聴能力をもつオカルトスターのクリストゥ(フェイザル・バジ)や超常現象に懐疑的な元奇術師のカーマイケル(イアン・ブリス)、ジャックの番組アシスタントを務めるガス(リース・アウテーリ)など一度見たら忘れられない個性的な登場人物が続々登場。なかでも多くの観客に鮮烈な印象を植え付け、恐怖心を刺激したのはやはり“悪魔が憑りついた少女”リリーだったようだ。演じたイングリッド・トレリの、さながら『エクソシスト』(73)のリーガンばりの迫真の演技には称賛の声が集まった。 「リリーの演技力もすばらしい」(10代・男性) 「リリーの幼さのなかに混じる狂気がじわじわと怖さを増していって、最後は見ていられなかった」(20代・女性) 「リリー役の方の目線とカット割りが奇妙ですごかった」(20代・男性) 「子役の目に非常に迫力があった。ずっとこちらを見続けるシーンが、虚構と現実の境界が溶けていく感覚があり怖かった」(30代・男性) そんな登場人物たちの、テレビに映らない“裏の顔”が見える舞台裏のシーンも臨場感を高めるうえで抜群の効果を発揮している。番組の映像は粒子の荒いカラー映像で撮影されている一方で、舞台裏の映像ではどこか冷ややかで緊張感のあるモノクロの映像。「画面の切り替えや白黒のCM間の映像の違いがおもしろかった」(20代・女性)、「放映中はカラー、CM中はモノクロ、アイキャッチのコントラストがよかった」(30代・女性)との声もあり、一般的なファウンド・フッテージ作品で“セオリー”とされている部分をぶち破る、大胆な映像表現にも注目してほしい。 さらに多くの観客が「ビックリした」と語っているのが、番組終盤に突如として起こる“放送事故”と、多くの含みを持たせたラストまでの怒涛のクライマックス。まずはまっさらな気持ちで衝撃の展開を目撃してほしいが、2回目からは番組内に張り巡らされた細かな伏線に注目すると、本作の深部までがより味わえることだろう。 「あれ?こんな感じで終わり?と思ってからの本当のラストシーンにびっくり」(30代・女性) 「ラストの展開について考察がたくさんできそう」(20代・女性) ■「イシナガキクエ」「このテープもってないですか?」など大森時生作品と呼応する世界観 ここまで紹介してきたコメントからもわかるように、多くの観客をフェイクドキュメンタリーの世界へ没入させた『悪魔と夜ふかし』。観客にこの上ないリアリティや恐怖心を植え付けた一番の要因は、やはり本作が“テレビ番組”という身近なメディアを題材にしたからにほかならない。 とりわけ劇中の「ナイト・オウルズ」のようなテレビバラエティの醍醐味を存分に活かしたオカルト番組は、1980年代から2000年代前半ごろにかけて日本でも数多く作られ、人気霊能力者が生まれるなど大ブームを巻き起こしたことは多くの人が知るところだろう。超常現象や心霊写真など、現実か虚構か定かではないギリギリのラインを攻める独特の空気感は、特にインターネットが未発達な時代に熱狂的な支持を獲得していた。 いまではすっかりそんな番組も少なくなってしまったが、それでも幼い頃に何気なくついていたテレビで見たオカルト番組から受けた強烈な記憶が、本作を観たことで呼び起こされたという声が多く寄せられていた。 「『USO JAPAN』や『奇跡体験!アンビリーバボー』のような本当か嘘かわからない番組が怖くて、印象に残っています」(30代・女性) 「『世にも奇妙な物語』の夢男の回の最後で、『今夜あなたの夢にお邪魔します』と顔が写り、眠れなくなった」(10代・女性) 「深夜に目が覚めてテレビをつけた時にやってた、大人向けのバラエティーがやけに怖かった」(30代・女性) 「宜保愛子さんがなにかの番組で『亡くなった人が夢に出てくる』というおまじないを視聴者にかけ、その晩に亡くなったペットのハムスターが本当に夢に出てきた」(30代・女性) 地上波ゴールデンタイムのオカルト番組は激減したものの、近年はフェイクドキュメンタリー作品が、深夜番組や動画配信サイトを中心に話題を集めている。今回の試写会では、「テレビ放送開始69年! このテープもってないですか?」や「TXQ FICTION/イシナガキクエを探しています」など“ファウンド・フッテージ”の手法を用いた番組を多数手がける、テレビ東京の大森時生プロデューサーが登壇するトークショーも開催。アンケートによれば、来場者の実に半数近くが大森プロデューサーのSNSをきっかけに本作に興味を持ったというのだから、その影響力は絶大だ。 そうしたこともあってか、「本作は、どんな作品が好きな人に刺さると思いますか?」というアンケートの質問には、「このテープ」や「イシナガキクエ」に加え、「Aマッソのがんばれ奥様ッソ!」や「祓除」、「SIX HACK」など大森が手掛けた作品のタイトルがずらりと並ぶ。また、「放送禁止」や「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」など往年の傑作フェイクドキュメンタリーから、『女神の継承』(21)や『呪詛』(22)といった近年注目を集めるアジアのフェイクドキュメンタリー映画のタイトルを挙げる人も。 ■ワクワク感をギュッと詰め込んだ、これぞ一級品のエンタテインメント! ほかにも「宗教、空想など不気味な要素を詰め込んだような作品だから」(20代・男性)と、アリ・アスター監督作品好きにピッタリという声もあれば、「ファウンド・フッテージものを観たことがなさそうな人に観てほしい」(20代・女性)という意見も。意外なところでは、番組づくりの表と裏が見られるという点で、三谷幸喜監督の長編監督デビュー作だった傑作『ラヂオの時間』(97)と比較する声も見受けられた。 また、「家族など、ホラーが苦手な人にも観てほしい。コメディとしてもおもしろい!」(30代・女性)、「ホラーに慣れていない人がホラー慣れするのに適しているので、友達や同僚に勧めたい」(20代・男性)といったコメントも多く見られ、普段ホラーを観ない人にも勧めたいという声が多かった。 もちろん「たびたび挟まるノイズがまさにファウンド・フッテージものあるある。このジャンルならではの表現であり、全編を通して収録物であることを徹底した作りになっているからこそ、最後の展開にグッと引き込まれた」(20代・男性)と、目の肥えたファウンド・フッテージ好きも太鼓判を捺しているので、コアなファンの方もご安心を。 あの頃オカルト番組に感じたワクワク感をギュッと詰め込み、「一級品のエンタテインメント」(30代・男性)にまで昇華させた本作。臨場感あふれる劇場の映像と音響で、封印された衝撃映像を目撃してほしい! 文/久保田 和馬