WBO世界王者・木村翔のV2戦はなぜ異例の中国開催になったのか?
木村を取り巻く環境も1年で大きく変わった。 「人生が180度変わった。いいスーツを着て、いい飯も食べられるようになった」 家賃5万円のアパートから15万円の夜景の見えるマンションへ引越し、酒屋の配達バイトもやめた。本来なら世界戦前にはタイ合宿を敢行するが、「成長したし練習に集中できる環境ができたためタイに行く必要がなかった」(有吉会長)と国内調整に切り替えた。 スパーリングは、日本フライ級王者でWBA世界同級1位の黒田雅之(川崎新田)の協力を得て、この暑さでも窓を閉め切り、サウナ状態になっているジムで1ラウンドを3分半に設定して12ラウンドをぶっ通しで動くなど、青木ジム名物の猛練習を重ねてきた。 「焦りがなかったと言えば嘘になるが、相手が誰でも、どこでも、僕と木村にやれることは練習しかなかった」と、有吉会長が言えば、木村自身も「短い期間ですけど、しっかり練習をしてきた。勝つ自信はある。ベルトは持って帰ります」。 7か月の時間を有意義に使った。減量も残り2.9キロほど。「まだ朝飯も食べられる」という。 さて挑戦者は13日に神戸で行われたWBO世界ミニマム級戦で、王者の山中竜也(真正)に判定勝ちで新王者になったビックの実兄。2年前の9月に井上拓真と対戦した際には1回に強烈な右ストレートでダウンを奪い“番狂わせ”を起こしかけた。戦績は31戦28勝(19KO)2敗1分。ゾウ・シミン側がわざわざ選んで送りこんできた刺客である。井上拓真との試合では、つめが甘く、その後、2度ダウンを奪い返され判定負けしているが、以降、5連続KO中。相変わらず荒っぽいスタイルで特にぶんぶん振り回してくる右は要注意だ。 ただ攻撃パターンは単純で上下に散らすなどの細かい駆け引き、つまりボクシングはできない。ディフェンスも甘く、後半にスタミナ切れの傾向もあるため、右の被弾(特に序盤)にさえ注意すれば、ボディから削っていく木村に死角はないだろう。映像を見たという木村も、「手が長くてパンチはある。負けてから5連勝、弟が勝って兄弟の勢いもある。前半はスピードもあるが、そこを耐えて持ち味である、後半のスタミナ勝負に持っていければいい」と戦略を練る。 攻撃的な木村とは噛み合う相手でKO決着は必至。中国のファンに受ける激しく面白い試合になるだろう。 「フィリピン人は夏に強い。最後は気持ちの勝負になると思う。世界戦にふさわしい熱くなる試合をしたい」 V2戦を乗り越えれば、最強挑戦者の田中が待っている。その田中が青島まで試合を見に来ると聞かされて木村は「しっかりと(目の前で)アピールしたいですね」と、ふふっと笑った。指名期限は9月。木村は24日に日本を発ち、決戦の地、中国入りする予定だ。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)