なぜソフトバンクは「今年1球も投げていない」投手を指名した? 育成7位・津嘉山憲志郎のドラフト会議ウラ話「こういうこともあるんだな、と…」
今年も多くの有望選手がドラフト会議に向けてプロを志し、志望届に夢を託した。その中には、高校生ながら肘のトミー・ジョン手術を受けてリハビリ中の津嘉山憲志郎(神戸国際大附)の名前もあった。そんな背景を知りながらソフトバンクが津嘉山を指名したウラには、どんな理由があったのだろうか? <全2回の前編/後編を読む> 【写真】「ど、どこから球が…?」柔軟過ぎて出所が見えない…ソフバン育成7位指名・津嘉山憲志郎のトミー・ジョン手術前“衝撃のフォーム”…実際の試合での投球風景&盛り上がった今年のドラフト会議の様子も見る 時計の針はとっくに夜8時を過ぎていた。 自分の名前を呼ばれたのはいつ頃だっただろうか。何時何分までは記憶していないが、名前が響いた瞬間、一緒に見守っていたチームメイトの歓声と、ようやく名前が呼ばれたと安堵したことは、はっきりと覚えている。 「あの時は本当にホッとしました。指名されて、まずは良かったというのが一番です。みんなでずっと待っていて、(名前が呼ばれた瞬間に)みんなが拍手してくれて」 「ソフトバンク 育成7位 津嘉山憲志郎 投手 神戸国際大附高校」 テレビ画面に映し出されたモニターには、確かに自分の名前があった。
ライバルよりも早く…高1夏に早くも高校野球デビュー
最速148キロの速球を武器とする本格派右腕として関西圏の高校野球界では早くから津嘉山の名前は知れ渡っていた。 その名がさらに広くとどろくようになったのは22年夏。神戸国際大付と社が対戦した兵庫大会の決勝だった。 2-2の同点だった6回から3番手投手としてマウンドに立ち、延長14回までもつれた激戦でロングリリーフ。打者22人を連続でアウトに打ち取るなど、7イニングを無安打に抑える快投を見せた。ただ、当時を振り返ってもらうと意外なことを口にした。 「投げていて楽しかったですし、あの試合は点が取られる気がしなかったんです。ただ……あの時、高校野球でタイブレークがあるのを知らなかったんです。あの試合は確か13回からだったんですけど、12回まで投げ終わって初めて知って。自分の準備不足だったのもあります」 現在は延長戦に入る10回から起用されているタイブレークが、当時は13回から採用されるルールだった。結局、14回表に3点を失い、津嘉山は負け投手に。それでも今秋のドラフト会議でソフトバンクから1位指名を受けた村上泰斗(神戸弘陵)や阪神から2位指名された今朝丸裕喜(報徳学園)よりも早く高校野球の公式戦デビューを果たしたのだった。 出身は沖縄県沖縄市。4人の兄が高校、もしくは大学から県外に出ていたため、自分も早くから沖縄を離れることは自然な流れだと思っていた。中学生の時に神戸国際大付の施設を見学し「ここで野球をやりたい」と兵庫県内屈指の実力校の門をくぐったが、最初は関西特有の言葉のイントネーションに何度も戸惑った。 「喋り方というか……関西弁は早口なのもあるので最初は聞き取り方が難しかったです。でも、入学したときに3年生に沖縄の方がいたので心強かったです」 慣れない寮生活も、先輩や同級生のお陰ですぐに馴染んだ。だが、津嘉山の中でこれだけは遵守しようと思ったことがあった。 「沖縄の人は行動が遅いって言いますよね。でも、その中で何か抜けるには周りとは違うことをした方がいいと思ったんです」 沖縄タイム、という言葉がある。沖縄県民は時間にアバウトで、集合時間や起床時間が人より遅れがちなことをソフトに表現しているが、野球をやっている身としてはどうもこの見られ方が引っ掛かった。そのため、何事も早めに、集合時間も30分前には必ず到着することを心掛けた。 「早く行動する癖をつけるだけでなくて、周囲とは違うことをしないといけないって思ったんです。ご飯の時間は準備があるので時間の少し前でいいとして、起床時間も集合時間も基本的に30分前にしていました」 練習にもとにかく真摯に向き合った。自主練習は誰よりも早くグラウンドに来て、トレーニング器具を手にし、寒い冬の朝もランニングを敢行した。そんな津嘉山の姿を青木尚龍監督は毎日目にしてきた。 「僕は30年以上指導していますが、ここまで野球に対して真摯に打ち込んで、野球が好きな子はいないです。何より取り組む姿勢がすごくいい。練習を始めるのに、寮を出てくるのも1番、何をするのも1番。どんな時でも真っ先に姿を見せたのが憲志郎でした」
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