社会的弱者と権力側の理不尽な構造を描いた『十一人の賊軍』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、山田孝之と仲野太賀が主演を務める時代劇アクション、ヴェノムとエディの活躍を描くシリーズ第3弾、人々の優しい繋がりを描く群像劇の、心を動かす3本。 【写真を見る】新発田を舞台に、藩、同盟軍、新政府の思惑が交錯する(『十一人の賊軍』) ■ユニークな“個”の集まりの物語…『十一人の賊軍』(公開中) 脚本家、笠原和夫が遺した原案を、白石和彌監督が映画化。題材は『十三人の刺客』(63)、『十七人の忍者』(63)、『大殺陣』(64)の系譜に繋がる東映集団抗争時代劇で、幻の企画の復活という点でも注目作だ。ストーリーは幕末の新潟、新発田藩を舞台に、奥羽越列藩同盟に加わりながら、裏で官軍と手を結んでいるこの藩が、敵対する二大勢力を欺くために死刑囚を使って、ある小さな砦を死守させようとするもの。そのために選ばれた死刑囚10人と剣の遣い手が、圧倒的な劣勢の中で戦っていく。死刑囚たちは、砦を守りきれば無罪放免になるという約束を信じて行動するのだが、そこにはグループとしての大義はない。だから山田孝之演じる主人公の政は、戦うことよりも生き延びることを優先して仲間を裏切るし、仲野太賀扮する剣士、鷲尾平士郎は藩の思惑など無視して、官軍と戦うことに自分の生きる目的を見つける。集団ではあるが、これはユニークな“個”の集まりの物語。そこに、「仁義なき戦い」シリーズで組織としてのやくざ映画を解体して見せた、笠原の原案の面白さがある。 白石監督は笠原の原案をベースにしながら、人間の弱さ、狡さを強調して、全編アクションの群像劇に仕立てた。その熱量は半端ではないが、見方によっては死刑囚たちの運命を握る新発田藩の家老、溝口内匠(阿部サダヲ)が、無罪放免という餌をぶら下げながら、彼らに危険なことをさせて使い捨てようとするところなど、まるでいま多発している強盗犯の指示役のようではないか。そういう意味でも、社会的弱者と権力側の理不尽な構造を描いた、今日的な1本でもあるのだ。(映画ライター・金澤誠) ■エンドロールが終わるまで座席を立つのは厳禁…『ヴェノム:ザ・ラストダンス』(公開中) スパイダーマンの宿敵であるダークヒーローが暗躍する人気シリーズ最終章。幽閉されたシンビオートの創造神ヌルが宇宙を破壊するために、その鍵を握るエディ(トム・ハーディ)とヴェノムの行方を追う。本シリーズの魅力はなんと言ってもアクの強いキャラクター。欲望に忠実で人間を食いまくる型破りなヴェノムは、個性派ヒーローひしめくマーベルのなかでもずば抜けた存在感を放っている。 今作でもそれは健在どころか、手配中のエディは逃亡先のメキシコで飲んだくれ、ほぼ全編にわたって二日酔いというハチャメチャぶりを発揮する。創造神の登場や宇宙の破壊とかつてないスケールだが、大上段には構えない。お涙頂戴どころかカラッとした別れを含め、最後の最後までオレ流を貫き通すヴェノムらしさが味わえる。これでエディとヴェノムの物語は完結。ただしエンドロールが終わるまで座席を立つのは厳禁だ。(映画ライター・神武団四郎) ■優しい奇跡に勇気がもらえる…『アイミタガイ』(公開中) ウエディングプランナーの梓(黒木華)は、親友の叶海(藤間爽子)を事故で失ってから前に進むことができなくなった。一方、叶海の両親もまたその死を受け入れられず、まるで謎解きをするかのように娘が生きた証を辿っていく。中條ていの連作短編小説をもとにつむがれた本作は、ふとした出会いが巡りめぐって明日への希望の光となる感動の物語だ。いまはあまり使われなくなった助け合いの精神を示す“アイミタガイ(相身互い)”の言葉に確かな絆への想いをのせて、広がっていく幸せの連鎖がほのかな悲しみとともに描きだされる。 両親の離婚を経験したことで自身の結婚へと踏み切れずにいる梓。その葛藤を軸に、登場人物たちの抱える悲しみや悩み、そして後悔が温もりあるエピソードに反転していく展開は、まるでマジックを見ているかのようでやるせない気分を一気に明るくしてくれる。そして不意に訪れるセレンディピティ(偶然がもたらす思いもよらない幸運)は、ハートフルな遊び心に満ちていて思わずニンマリ。しっとりと過ごしたいこの時期ぴったりの、優しい奇跡に勇気がもらえるオータム・ムービー!(ライター・足立美由紀) 映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。 構成/サンクレイオ翼