家の猫の話 Vol.3/執筆: ピエール瀧
とある日の未明。場所はリビング。 コロッケ(以下コロ):なんだか窓の外がうっすら明るくなってきた。となれば腹が減ったなぁ。そろそろあのカリカリしたカリ飯を味わう時間じゃないのかな。そうですよね?コンブさん? 家の猫の話 コンブ(以下コン):(ダイニングの椅子で丸くなりながら)………。 コロ:見てください。いつも我々にカリ飯を給仕してる例のオス人間が今夜はソファーの上で寝落ちしてますよ。しかも口を開けて、Switchのコントローラーを握りしめたまま。ああ、なんとみっともない様だこと。そうでしょう?コンブさん? コン:………。 コロ:それにしてもオス人間め、夜が明けたったいうのに全然目を覚ます気配がないな。これはオイラがそろそろ給仕の時間だってことをヤツに知らせてあげなきゃいけないかもしれませんね。 ブイヨン(以下ブイ):どうやらそのようね。なぜなら私たちは今やすっかり腹ペコですもの。まったく世話が焼ける人間だわね。 コロ:了解です、じゃあそうしましょうか。(オイラが寝てるソファーにひょいと飛び乗って)…というかこのオス人間、もしかしたら死んでるんじゃないでしょうかね?ちょっと確認してみます。フンフンフンフンフンフンフンフン…(オイラの耳元や口元で鼻息荒く匂いを嗅ぐ仕草)。 コン:…………。 コロ:あっ!今ちょっとだけビクッと動きました。目はまだ開きませんが、ウザそうな顔をしながら両腕で顔面付近をガードする姿勢に変わりました。どうします? ブイ:はあ、生意気ね。どう?死臭はした? コロ:死臭はしません。動いたのでどうやらまだ生きてるみたいです。 ブイ:だとしたら怠慢だわ。私達への給仕の時間を忘れるだなんてまったく図々しい。失礼しちゃうわ。こういう時はどうすべきかしら? コロ:今は両手が上がってますから、オス人間の腕の皮の薄い部分が両腕とも露わになってますね。噛みます? ブイ:そうね。噛むべきだわね。やっておしまいなさい。そうよね、コンブ。 コン:………。 コロ:了解しました。では噛みまーす。 (オイラの二の腕の裏側の皮の薄いところを遠慮なく噛むコロッケ。めちゃ痛い!) コロ:うひゃひゃひゃひゃ。ビクッてなりましたw。明らかに効いてます。薄目を開けて一瞬こっちを見ましたが、メス人間が夜中にかけていったタオルケットの中に両腕をしまいこんで知らんぷりを決め込むみたいです。今現在はタオルケットから首だけ出てるミイラ状態になりました。 ブイ:これ以上噛ませない作戦ね。では次の段階よ。乗りなさい。 コロ:そうなりますね。乗りましょう。 コン:………。 ブイ:胸の辺りに乗れば圧迫感があって効果的よ。さあ、お乗り! (オイラの胸の辺りに移動してきて仁王立ちするコロッケ。薄ら苦しくて目を覚ますオイラ) コロ:あっ!目を開けました。目を開けたらオイラに見下ろされているので可笑しくなったんでしょうか。笑ってこっち見てます。 (あまりにも勇ましいポーズで至近距離で見下ろされているので、仕方なく起き上がり、各猫のカリカリを準備) コン:(カリカリの音を聞きつけ、丸くなっていた椅子から慌てて飛び降りて)ギギギギニャ~~~~ッ!(バクバクバク~!) ブイ:美味しいわね。いつでも美味し…、オッ、オッ、オゲ~ッ!(食べたエサと共に毛玉を吐く) コロ:おっ!いいすね~。ブイヨンさん今日は吐く日なんすね。 ブイ:はあ。ああ、さっぱりしたわ。さて次は夕飯が楽しみだわ。早く夕方にならないかしら。(窓のそばで知らん顔して毛繕い) (仕方がないので、床にぶちまけられた吐きたてのゲロを、寝ぼけ眼&寝ぐせ&無表情で片付けるオイラ。もはや何とも思わない) コン:(猫トイレで)プリプリプリ~。 総評:猫を飼っているとこんな感じの朝が年間40日くらいあります。皆さんが思っているよりも、意外と家の中に野生が振りまかれます。ご参考までに。
プロフィール
ピエール瀧 ぴえーる・たき | 1967年、静岡県出身。1989年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。道行く人に「あなたのオススメは?」と尋ね、その返答の通りに旅をするYouTube番組『YOUR RECOMMENDATIONS』が好評配信中。著書に『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター)、『屁で空中ウクライナ』(太田出版)など。3月1日(金)より、主演を務める映画『水平線』が全国順次公開中。 photo & text: Pierre Taki, edit: Ryoma Uchida
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