糖質制限はダイエットの敵? 逆風に反論、砂糖博士「悪いわけがない」
砂糖“悪者”の諸説きっぱり否定、ただし虫歯だけは注意
糖質が健康へ悪影響を及ぼす、という類の説は他にもあります。たとえば、「糖質は骨を弱くする」。これに対して、奥野さんは「糖質は酸性なので、体内のpHをアルカリ性の方に戻そうとしてカルシウムが溶け出す、と言われますが、酸性またはアルカリ性の食品を摂るだけで体内のpHは左右されません」ときっぱり否定しました。 また「人体の抵抗力を弱める」説。これに対しては、「むしろ糖質を摂ってタンパク質を体に吸収させないと、免疫力が落ちて風邪をひきやすくなる」と反論。「ガン細胞の栄養になる」説には「ガン細胞に限らず、普通の健康な細胞の栄養にもなるので、砂糖をとらなければ、健康な細胞の栄養も減る可能性があります」。 「砂糖は漂白しているので健康に悪い」説は、「いまだに言われることがあるんですよね」と苦笑しつつ、「漂白とは色の成分を化学的になくすことですが、砂糖の生産では色の成分を取り除いて白くなっているだけ。漂白工程はありません」と述べました。 ただし、「虫歯の原因」説だけは、「確かに糖質が原因となりますので、寝る前にはぜひ歯を磨くなど、虫歯には気をつけてほしいですね」と正しさを認めていました。 食の保存においても、糖質の貢献度は大きいと奥野さん。「加工食品には砂糖が入っていますが、もし砂糖がなければ保存があまりきかなくなります」 照りを出す、ふんわりとふくらませる、柔らかく仕上げるなど、砂糖の持つ物性を生かした料理も多々あります。「砂糖は人々に多くの幸せや楽しさを届ける存在。もしも砂糖がなければ、QoL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)が下がってしまうでしょう」 「砂糖が人体に悪いのか否か、栄養学の先生に聞くと『悪いわけがない。普通に料理に使う分量なら問題ない』とも言われました」と砂糖の“無実”を訴えます。
砂糖の体内吸収速度に着目した新商品を発売
このように、砂糖の良さを世に訴える奥野さんですが、製糖会社社員の立場で砂糖の良さをアピールしても、消費者からは「売り上げを伸ばしたいだけ」と見られがちで、“逆風”の強さをしばしば感じることも。「学校の先生が、砂糖は白い薬物だと言っていた」と子どもから聞き、がっかりする社員もいたそうです。 一体、どのようにして、時代や消費者のニーズに応じた、砂糖の良さを伝えるのか。奥野さんたちがバッシング逆襲の一手とし、新たに着目したのが、砂糖の体内での吸収速度でした。 「かつて、砂糖の吸収速度の早さは利点でしたが、今はその早さが害だと見られています。ならばゆっくり吸収される砂糖があれば、と考えたのです」 9月、同社は体にやさしい砂糖「スローカロリーシュガー」の全国展開を開始しました。砂糖にくらべて小腸での分解速度が約5倍遅い植物由来の糖質「パラチノース」を配合。砂糖よりもゆっくりと消化吸収されるので、食後の血糖値の変化が比較的緩やかになり、体に負担をかけにくいというメリットがあります。 奥野さんは「砂糖が人間にとって有益であることを、具体的な商品を介して伝えていきたいです」と意気込んでいます。 (取材・文:具志堅浩二)