利益を伸ばす企業の共通点とは? カスタマーサービスが生み出す力、重要性を再考しよう
事業戦略において、カスタマーサービスをどのように位置付けていますか? 馬具の販売を手がけるDover Saddlery(ドーバーサドルリー)の創業者で名誉CEOのブラッド・ウォランスキー氏はマーケティング視点として、カスタマーサービスはコストセンターではなく、利益を生むプロフィットセンターとして重要視するべきだと提唱しています。そのウォランスキー氏が、現在の市況において、小売事業者がカスタマーサービスをどのように捉えるべきかについて語りました。
カスタマーサービスを取り巻く環境を理解しよう
好調な経済状況、それに反して買い物に消極的な消費者心理の二律背反を理解するには、接客業の視点から考えることが有効でしょう。特に、小売業界において顧客に最も接する機会が多い接客業の従事者は、ここ数年にわたり生活に打撃を受け続けています。 コロナ禍前、コロナ禍、アフターコロナ、現在の景況感やカスタマーサービスを取り巻く環境を見ることで、事業者側と消費者心理を理解するためのヒントが見えてくるかもしれません。 ●コロナ禍前 ・経済は活況。接客スタッフは完全雇用。現状維持のビジネススタイルでも、多くのサービス業が伸長 ●コロナ禍 ・接客スタッフの多くが解雇され、小売業の接客サービスが手薄に ●アフターコロナ ・店舗が再オープンし、接客スタッフの一部は店舗に戻るものの、まだ復帰できていないスタッフもいる。接客業は顕著な人手不足で、復帰したスタッフは過労で疲弊する自体に ●現在 ・接客サービスの価値が再認識され、スタッフは増員された。経済のインフレが進んでいることにより、スタッフの給与水準、小売業・接客業の収益性確保に課題がある
コロナ禍で全世界が大きな打撃を受けるなか、接客サービスは一時的に鳴りを潜めたものの、そのまま不必要なものになることは決してありませんでした。
コストを惜しんだカスタマーサービスではファンを作れない
私が執筆した『Raving Fans Creation(熱狂的なファンの創造)』では、「優れた小売事業者はより良いカスタマーサービスがより多くの売り上げをもたらすことを知っている。カスタマーサービスはコストではなく、マーケティングのための投資と位置付けるべきだ」と指摘しました。粗末なカスタマーサービスでは、リピーターは決して増えません。 ■ 優れたカスタマーサービスは必要とされている 充実したカスタマーサービスを提供するためのコストは上がり続けていますが、それでも、優れたカスタマーサービスが必要なのは今でも同じです。たとえば、次のケースから見ても、それは明らかです。 ・顧客は10%のサービス料を付加しているレストランを嫌がります。また、すでに値上がりしている食事メニューの価格がさらに高くなるのを、もっと嫌がります。10%のサービス料は、好まれるとは言えませんが、顧客にとって理解はできます。食事の原材料価格の上昇(インフレ)+人件費の上昇が背景にあると想像できるからです。一方で、昨今の急速なインフレは値上げの限界値を超えています。 ・現在急速に発達しているAIは、人員削減の一因にあげられています。おそらくAIは、満足度の高いカスタマーサービスを再現したり、既存のカスタマーサービスを改善したりできると思われますが、「AIにカスタマーサービスを任せて、生身の人間によるカスタマーサービスは減らすほうが良い」とは結論づけられていません。AIはむしろ、自動音声応答システム(IVR)のようなカスタマーサービスを代替する可能性があります。 ■ 生身の人間による接客の重要性 IVRで「リクエストするには『1』を押してください」といった無機質なメッセージを顧客にアナウンスする対応は、企業からはコスト削減に貢献する施策として賞賛され、消費者からは嫌がられてきました。消費者の立場からすれば、カスタマーサービスに電話し、たらい回しにされることなく、生身のスタッフに直接つながる方がもっとも喜ばしいことです。 消費者はカスタマーサービスにおいて人間同士のコミュニケーションを好みますが、そのコストは誰が負担するのでしょうか? 馬具店の「Dover Saddlery」では、顧客は店頭で革の匂いをかいだり、ヘルメットやズボンを試着してフィット感を確かめたり、店舗内で他のライダーと交流したりすることを好みます。オンラインショッピングの販売チャネルに、店舗での便利な買い物という選択肢が与えられた場合、顧客はより人間的な交流の多い販売チャネルを選択します。 多くの人が予測したように、コロナ禍後も実店舗は生き残っています。インターネットは利点も多いですが、より高いレベルの接客サービスや人間同士の交流に打ち勝つことはありません。