国民民主党・経済政策の財源問題③:外為特会の剰余金は減税の財源として使えるか?
外為特会の剰余金の大半は一般会計に繰り入れられ、減税の財源とはならない
減税など積極財政政策の財源の一つとして、国民民主党は今までも、外為特会(外国為替資金特別会計)の剰余金を活用することを主張してきた(コラム「為替介入の為替売買益、外貨準備の含み益の活用は正しい議論か」、2024年5月15日)。 外為特会は、政府が外貨準備として保有する外貨建て資産の利子収入を中心とする歳入と、外為特会が資産として保有する外貨準備に対する円建て負債を構成する政府短期証券の利払い費を中心とする歳出からなる。この歳入から歳出を引いたものが外為特会の剰余金となる。 しかしこの剰余金は使い道が決まっている。財務省は、「歳入と歳出の差額である毎年度の利益(決算上剰余金)は、一部を外国為替資金特別会計の運用資金である外国為替資金に組み入れ、残りを一般会計や翌年度の外国為替資金特別会計の歳入に繰り入れています」と、そのルールを説明している。 2022年度決算では、歳出と歳入の差額である剰余金は3兆4,758億円が生じたが、そのうち大半の2兆8,350億円は翌2023年度の一般会計に繰り入れられた。さらにその半分近くの1兆2,004億円は、防衛力強化の財源に使われている。残りのわずか6,408億円が2023年度の外為特会の歳入に繰り入れられた。 仮に一般会計に繰り入れる分を国民民主党が主張する所得減税の財源の一部に使えば、その分一般会計の歳入が減るだけである。 さらに、剰余金はこの先縮小することが見込まれる。米国など海外で利下げが進む一方、日本銀行の利上げが進められていけば、外為特会の外貨建て資産の利子収入が減少し、円建て負債の利払いが増加する可能性があるためだ。 為替介入による為替差益を活用すべき、との議論も聞くが、それも剰余金の一部であり、その大半は一般会計に繰り入れられていくため、減税の財源とはならない。
外貨準備の含み益活用は為替介入に他ならず現実的でない
円安が進む中で、外貨準備として保有する外貨建て資産の円建て換算値が増加したことから、その評価益(含み益)を財政資金に活用すべきとの議論も出ている。 立憲民主党の江田憲司氏は今年5月8日の衆院財務金融委員会で、外為特会で保有する米国債が満期になると、購入時に比べて円安が進んだ結果、償還金に年間約6兆円の評価益が生じていると指摘した。そのうえで、それを「円安による物価上昇に苦しむ国民に還元すべきだ」と主張した。 しかし、当時の鈴木財務大臣も指摘したように、満期が到来した米国債の償還金を円に換えれば、それはドル売り円買いの為替介入に他ならない。イエレン米財務長官がたびたび、日本の為替介入に対する不満を表明している中、為替の過度な変動に対応した為替介入という名目以外の為替介入を実施することは、米国との関係をさらに悪化させることになり、実現のハードルはかなり高い。 2022年に国民民主党は、外貨準備を取り崩さずにその「評価益」を償還の裏付けとした政府短期証券(FB)の発行も提案している(コラム「円安による外貨準備の含み益を埋蔵金として活用することは可能か」、2022年12月1日)。 しかし、「評価益」を実現益にすることができないのであれば、それは何ら裏付けとはならず、政府短期証券(FB)の発行は単なる新規の国債発行、政府債務の拡大と変わらなくなるのではないか。また、為替の変動を受けて、裏付けとなる評価益の金額自体が常に大きく変動してしまう、という問題もある。 このように、外為特会の剰余金、為替介入による為替差益、円安進行による外貨準備の含み益を新たに財政資金として活用すべきとの主張は、正確性を欠いた議論と考えられる。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英