「自分らしく自由に生きられる人生を」歯科技工士から革職人に転身した女性に迫る
珈琲豆の焙煎とカフェ店員
江北図書館内のカフェでは、藤田さんが焙煎した珈琲豆を使用した珈琲や、地元の『つるや』で製造したパンなどを販売しています。 『つるや』はこれまで数々のメディアに取り上げられた『サラダパン』が全国的に有名な店舗です。 藤田さんはカフェ店員を週に5日間こなしながら、空き時間や休日を利用して革製品の製作や珈琲豆の焙煎などを行っています。 「カフェは7時間労働なので、仕事を終えて帰宅してから製作作業をしようとは思っているのですが……飲食店勤務が初めてな事もあり、今は疲れて帰宅後は何もできない状態です」 カフェ勤務を終えた後には製作作業が進まないため、最近はカフェが休業となる火曜日と水曜日を創作活動に充てているとのこと。革製品を製作している時間が本当に楽しいと語る藤田さんですが、数年前までにはまったく考えられなかったといいます。
離婚と移住をきっかけに興味を持った事にチャレンジ
藤田さんの生活が大きく変化したのは、34歳で経験した離婚でした。 「離婚して仕事も辞めて、自分には何も無くなってしまいました。気がつけば、趣味も興味あることも何も無かったのです」 以前の藤田さんは、自分から進んで何かをするタイプではありませんでした。しかし、離婚を機に自分からさまざまな事柄に挑戦するようになり、日々を楽しく過ごせるようになったそうです。 「今までは苦手ながらも人に合わせて、我慢して生きてきたのですが、離婚してからは人生を楽しく生きようと考えるようになりました。人に合わせて生きていた自分を変えようと思って、それからはいろいろな挑戦をしています」 藤田さんは優しい笑顔で、当時の気持ちの変化を語ってくれました。自分から外の世界に出るようにしたところ、人の優しさに触れ多くの仲間ができたといいます。 「たとえば、ふらっと入った自転車屋さんで気になった自転車を購入したり、中学のときに楽器が欲しかったことを思い出してウクレレを習い始めたりしました。ほかにはカメラに興味を持ったので写真教室に通ったり、友達に珈琲焙煎を教えてもらったのをきっかけに自家焙煎を始めたりもしました」 以前では考えられないほどの多趣味となり、ウクレレや自転車、カメラによって知人も増えたそうです。 「神戸方面の自転車仲間が多く、淡路島やしまなみ海道などでツーリングやキャンプにも挑戦しました」 離婚後、藤田さんの世界は一気に広がりました。さらに、ウクレレやカメラ用のストラップに興味を持ち始め、革を加工して自分で作るようになったといいます。 本格的に革加工を学ぶきっかけとなったのは、写真教室のつながりで入社した革製品を取り扱う会社でした。藤田さんはカメラ用のレザーストラップの製造に従事し、革職人に必要な多くの技術を学びます。 「歯科技工士の仕事をしていたこともあり手が器用だったので、その経験が革加工の仕事にも生かせたと思っています。ただ、最初は『作業が遅い』『失敗しすぎ』『なんでできないの?』と言われ、私自身が壊れそうでした。でも、そんなつらい時期を乗り越えたからこそ、今があると思っています」 藤田さんは職人さんに追いつこうと努力しましたが、約8ヶ月で退職してしまいます。しかし、勤めていた8ヶ月間で、革加工だけでなく接客や受注配送関係の業務内容にも携わり、独立できる力を身につけました。 その後、障がい者福祉施設の作業所にて生活支援員として勤務し、レザークラフトの製作指導などに取り組みます。生活支援員としての仕事をしながら、ウクレレストラップの製作販売を行うようになり、平成29年(2017年)4月に『n.liko』としての作家活動を開始しました。 作家としての活動を始め、生活支援員とイベントや展示販売などで忙しい日々を送っていた藤田さんですが、ふと田舎で暮らしたいと考え始めます。 そして、令和3年に発酵をテーマにした商業文化施設のオープニングスタッフとして入社し、転職を機に滋賀県長浜市に移住しました。 しかし、ものづくりに携われると考えて転職した会社でしたが、社風が肌に合わず約5ヶ月後に退職。退職後は『n.liko』の活動に専念するようになり、自宅アトリエにて革製品のオーダー製作や自家焙煎珈琲豆の販売を開始しました。 令和6年1月、有限会社『つるや』の西村さんと知り合い、出会ったその日に「一緒に木之本の江北図書館前でカフェをしてくれませんか?」と誘われます。 昭和レトロ好きだった藤田さんは「こんな素敵な江北図書館前で珈琲を入れるなんて夢かもしれない」と思ったそう。じつは、将来的に古民家カフェもやってみたいと考えていたこともあり、西村さんの誘いを快諾。長浜市内の『江北図書館Lib+つるやカフェ』にて珈琲焙煎職人として働き始め、現在に至ります。