アメリカと日本の「核密約」をめぐる「ドタバタ劇」…アメリカはどのように日本から「軍事特権」を奪いとったのか?
アメリカによる支配はなぜつづくのか? 第二次大戦のあと、日本と同じくアメリカとの軍事同盟のもとで主権を失っていた国々は、そのくびきから脱し、正常な主権国家への道を歩み始めている。それにもかかわらず、日本の「戦後」だけがいつまでも続く理由とは? 累計15万部を突破したベストセラー『知ってはいけない』の著者が、「戦後日本の“最後の謎”」に挑む! 【写真】なぜアメリカ軍は「日本人」だけ軽視するのか…その「衝撃的な理由」 本記事では 〈日本がアメリカに結ばされていた「核持ち込みに関する密約」…「密約」は明確に存在していた〉にひきつづき、戦後の日米関係についてみていきます。 ※本記事は2018年に刊行された矢部宏治『知ってはいけない2 日本の主権はこうして失われた』から抜粋・編集したものです。
「アメリカン・フットボール」対「騎馬戦」
ここに現在、混迷を深める日本の社会と外交を立て直すための、大きなカギが隠されているような気がします。過去の歴史的事実がきちんとわかっていなければ、もちろん現状について分析することも、未来についての対策をたてることもできない。 加えてなによりも、これほど明らかな弱点を持つ交渉相手に対し、アメリカの外交担当者がその弱点を徹底的に分析し、利用してこないはずがないのです。 この核密約をめぐる日米のドタバタ劇を冷静に眺めていくと、アメリカ側が一見困惑した顔をしながらも、日本側の最大の弱点である情報の歴史的断絶状態につけこんで、自分たちに必要な軍事特権をどんどん奪いとっていった様子がよくわかります。 アメリカの外交を表現する言葉として、よくそれは「アメリカン・フットボール型」だと言われることがあります。 つまり、フィールドの上には多くのプレイヤーがいて、フォーメーションに従って陣形を組んでいる。さらにバックヤードには戦況を分析する多くのスタッフがいて、過去のデータに基づいて作戦を立て、次の「最善の一手」を無線で指示してくる。 事実、重要な外交交渉の前には、驚くほど緻密な調査レポートがいくつも作成されていきます。 一方、日本の外交はといえば、非常に残念ですが記録を読むかぎり、それは「騎馬戦 型」だと言わざるをえないのです。 もちろん個人の能力としては非常に優秀な人たちなのでしょうが、つねにトップの方のほんの3~4人だけが騎馬を組んで戦う。高度な情報はすべて彼ら数名が独占し、その他のスタッフたちとも共有せず、密室で作業する。 けれども過去の正確なデータは、同じく数人が独占する「情報断絶状態」にあったため、きちんと収集・分析することができないし、また彼ら自身もあとには伝えない。 それでは、きびしい交渉に勝てるはずがないのです。 ジョン・F・ダレス国務長官やマッカーサー駐日大使など、日本の交渉相手だったアメリカの最高の外交官たちは、アメリカン・フットボールというよりも、むしろそのモデルとなった「戦争」そのものとまったく同じ感覚で、相手国を分析し、作戦を立てています。 その彼らに対して、正確な地図も過去のデータも、後方支援部隊との通信手段も、なにも持たずに立ち向かっていっても百戦百敗になるのは当たり前の話なのです。